令和3年度企画展示「渋沢栄一と一橋大学」7
一橋大学附属図書館社史コレクションと渋沢栄一
一橋大学附属図書館では、社史・団体史を積極的に収集・所蔵している。
これは、イノベーション研究センター資料室が、その前身である産業経営研究所設立(1949年)当初から一貫して企業研究の基礎資料として収集・整理してきたものを、2013年の閉室に伴い移管したものである。附属図書館では移管資料の所蔵に止まらず、現在でもコレクション拡充のため、寄贈依頼などの収集活動を継続している。
渋沢は約500もの企業の設立に関与したといわれ、附属図書館社史コレクションの中にも、渋沢が創立や経営、運営に関わった企業・団体のものが多く含まれている。
例えば、『第一銀行史』(1957)では、渋沢の孫にあたる渋沢敬三が巻頭文を寄稿する他、設立時の渋沢の尽力が詳細に記されている。第一銀行は、現みずほ銀行の主な母体の一つであるが、設立(当時は第一国立銀行)には当時大蔵省の職員であった渋沢が尽力し、1873(明治6)年設立時には総監役、後に頭取に就任している。
このほか、王子製紙、東洋紡、サッポロビール、オーベクスなども、社史に渋沢の写真を掲載したり、創業期や経営体制変更時に貢献し、時に援助・助言があったことを記載しており、現在でも渋沢の経営理念に影響を受けていることが伺える。 社史コレクションのうち和書の約13,000冊は、附属図書館本館地階にまとめて配置されており、いつでも閲覧が可能となっている。
第一銀行史(上・下巻)
第一銀行八十年史編纂室編.第一銀行,1957-1958年
【請求記号 Vqfa:20:2】

第一銀行は、1896(明治29)年から1971(昭和46)年まで存在した、民間経営の株式会社である。1971(昭和46)年に日本勧業銀行と合併し、第一勧業銀行となった。
国立銀行条例の調査立案に携わった渋沢は、三井組、小野組へ条例に基づく銀行設立を促し、1873(明治6)年に第一国立銀行が創立された。名称の「国立」は国立銀行条例による銀行という意であり、三井・小野を大株主とする株式会社であった。渋沢は大蔵省を辞職して創立当初は総監役、1875(明治8)年に頭取に就任した。
1896(明治29)年、国立銀行条例による営業免許が終了したことから、一般銀行となり「第一銀行」となった。渋沢は引き続き1916(大正5)年まで頭取として在職し、頭取を辞した後も、没するまで相談役であった。
『第一銀行史』は第一銀行の80年史として1957(昭和32)年から1958(昭和33)年に刊行された。一銀行の社史に止まらず、日本の近代銀行の成立史として欠かせない文献である。本書には、取締役と副頭取を歴任した渋沢敬三が序文を寄せている。
昭和四年六月二十二日株式會社第一銀行本店定礎式に於て
『渋沢栄一アルバム 大正13年3月~昭和6年9月撮影』
【一橋大学学園史資料室蔵 請求記号 A04-8】

第一国立銀行は明治6(1873)年、海運橋兜町に本店を構えて開業した。その後本店が手狭となり移転について検討していたところ、大正12(1923)年の関東大震災により被災した。
大正13(1924)年に三菱合資会社が開発中であった丸の内に千坪の土地を購入し、昭和5年に本社建物が完成、11月に移転した。設計は西村好時。
昭和46(1971)年に第一銀行が日本勧業銀行と合併するまで本店建屋であり、合併後第一勧業銀行の初代本店として使用されたが、現存しない。
左:渋沢(相談役)、右:佐々木勇之助(頭取)
展示所蔵社史一覧
書誌情報 | 創立期社名 | 現社名* | 備考 | |
1 | 『第一銀行史』 第一銀行, 1957-1958 【Vqfa:20:2】 | 第一国立銀行 | みずほ銀行 | |
2 | 『第一勧業銀行二十年史』 第一勧業銀行, 1992 【Vqfa:150:3】 | 第一国立銀行 | みずほ銀行 | |
3 | 『王子製紙社史』 王子製紙, 2001 【Vqad:1:9/1】 | 抄紙会社 | 王子製紙 | |
4 | 『東京海上火災保險株式會社六十年史』 東京海上火災保険, 1940 【Vqfb:2:1】 | 東京海上火災保険 | 東京海上日動火災保険 | |
5 | 『七十七銀行百年史』 七十七銀行, 1979 【Vqfa:10:3】 | 七十七銀行 | 七十七銀行 | |
6 | 『東洋紡百三十年史』 東洋紡, 2015 【Vqab1:10:4】 | 大阪紡績/三重紡績 | 東洋紡 | |
7 | 『百二十年史』 日産化学工業 , 2007 【Vqaf1:2:4】 | 大日本人造肥料 | 日産化学工業 | |
8 | 『東京製綱125年史』 東京製綱 , 2015 【Vqam:2:4】 | 東京製綱 | 東京製綱 | |
9 | 『日本鐵道株式會社沿革史』 [出版者不明], [19–] 【Vqha:18:1】 | 日本鉄道 | 東日本旅客鉄道 | 東北本線・高崎線・常磐線等 |
10 | 『東京ガス百年史』 東京ガス, 1986 【Vqib:1:5】 | 東京瓦斯 | 東京ガス | |
11 | 『日本煉瓦100年史』 日本煉瓦製造株式会社, 1990 【Vqak3:34:1】 | 日本煉瓦製造 | 日本煉瓦製造 | |
12 | 『石川島播磨重工業社史』 石川島播磨重工業, 1992 【Vqap1:4:3/1】 | 石川島播磨重工 | IHI | |
13 | 『帝国ホテル百年史』 帝国ホテル, 1990 【Vqka:12:2】 | 帝国ホテル | 帝国ホテル | |
14 | 『オーベクス100年史』 オーベクス, 1993 【Vqab6:19:2】 | 東京帽子 | オーベクス | |
15 | 『東洋汽船六十四年の歩み』 東洋汽船, 1964 【Vqhb:17:1】 | 東洋汽船 | 日本郵船 | |
16 | 『浦賀船渠六十年史』 浦賀船渠, 1957 【Vqap1:2:1】 | 浦賀船渠 | 川崎重工業 | |
17 | 『八十年史 : 日本セメント株式会社』 日本セメント, 1963 【Vqak2:4:2】 | 浅野セメント | 日本セメント | |
18 | 『日本興業銀行五十年史』 日本興業銀行臨時史料室, 1957 【Vqfa:25:3-1】 | 日本興業銀行 | みずほ銀行 | |
19 | 『創業100年史』 – 品川白煉瓦, 1976 【Vqak3:16:1】 | 品川白煉瓦 | 品川リフラクトリーズ | |
20 | 『創業100年史』 古河鉱業, 1976 【Vqal2:12:1】 | 古河鉱業 | 古河機械金属 | |
21 | 『大日本麥酒株式會社三十年史』 大日本麥酒, 1936 【Vqaa2:3:1】 | 大日本麥酒 | サッポロビール/アサヒビール | 1906(明治39)、大阪麦酒(アサヒ)札幌麦酒(サッポロ)日本麦酒(エビス)3社が合併 |
22 | 『サッポロビール120年史 : since 1876』 サッポロビール, 1996 【Vqaa2:3:4】 | 札幌麦酒 | サッポロビール | |
23 | 『帝劇の五十年』 東宝, 1966 【Vqkb:2:5】 | 帝国劇場 | 東宝 | |
24 | 『ニッピ110年史』 ニッピ, 2017 【Vqah:1:2】 | 日本皮革 | ニッピ | |
25 | 『澁澤倉庫百年史』 澁澤倉庫, 1999 【Vqhc:1:3】 | 澁澤倉庫 | 澁澤倉庫 | |
26 | 『清水建設百八十年』 清水建設, 1984 【Vqd:1:4】 | 清水満之助商店 | 清水建設 | 清水屋は1804(文化元)年に開業。渋沢は四代目清水満之助の時代(1887(明治20)年~)に相談役・顧問として支援した |
27 | 『百三十年史』 日本紙パルプ商事, 1975 【Vqea:48:1】 | 中井商店 | 日本紙パルプ商事 | |
28 | 『日本経済新聞社130年史』 日本経済新聞社, 2006 【Vqkc:18:6】 | 中外商業新報社 | 日本経済新聞社 |


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