農商務省調査資料

概要

 農商務省が明治10~20年代に実施した各種調査の記録。

 一橋大学附属図書館が所蔵する『農事調査』 『商業志』 『水産調査書』の3点は、明治10~20年代に農商務省が編纂した調査記録の書写本である可能性が高い。そのため、当館ではこの3点を「農商務省調査資料」と総称している。

 『農事調査』は、明治23年 (1890) から26年 (1893) にかけて本州・四国・九州の各府県で実施された調査の記録である。北海道庁・沖縄県及び愛知県を除く44府県の調査記録が作成されたが、大正12年 (1923) の関東大震災ですべての原本が焼失した。当館所蔵本はこの原本を抄写したもので、上記1庁2県と和歌山県・鹿児島県を除く42府県の調査記録が今日まで伝わっている。和歌山・鹿児島両県の記録が欠本となっているのは、両県の記録の提出が遅れたことに起因するものと考えられる。明治25年 (1892) 1月の時点で熊本・高知・香川・和歌山・鹿児島・愛知の6県の記録が未完成、同26年 (1893) 6月の時点で愛知県の記録のみが未完成であったことから推測すれば、当館所蔵の抄写本が作成されたのは明治25年1月~26年6月の間ということになる。この間、明治25年4月に高等商業学校教授の森島修太郎が農商務省から商工業調査を嘱託されており、彼が当館所蔵本の成立に関与しているのかもしれない。

 『商業志』は第2冊の巻頭に名を連ねる編纂者轟保・校閲者高鋭一の両名が農務省総務局記録課の職員であることを根拠に、農商務省の調査記録を書写したものと判断した。47庁府県のうち、山梨県・京都府・奈良県・徳島県・香川県・愛媛県・高知県・沖縄県の1府7県の調査記録が欠本となっている。『農商務省図書類別目録 第壱輯 和書之部』 (明治34年刊) によると『商業志』は全45冊なので、当館が所蔵する『商業志』は『農事調査』と同様抄写本であろう。

 一方、『水産調査書』という書名は『農商務省図書類別目録 第壱輯 和書之部』には見えない。しかし、第2冊に「奥局長」 (初代農商務省水産局長奥青輔) ・「河原田」 (同局員河原田盛美) 両名の名が登場することから、こちらも農商務省の調査記録と判断した。奥局長時代の明治19年 (1886) に編纂が始まった「日本水産誌」に関連する資料ではないかと推測される。

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関連情報

※この資料は、デジタルアーカイブ「近代日本経済史・経営史」の収録タイトルです。

関連資料

図書・論文

  • 『日本水産製品誌』 農商務省水産局、1913~1916年
  • 『明治中期産業運動資料 第1集 農事調査』 第1~18巻、日本経済評論社、1979~1980年
  • 土屋喬雄 『明治前期経済史研究』 第1巻、日本評論社、1944年
  • 石山昭次郎 「明治21年府県「農事調査」について : 書誌学的考察を中心として」 『地方史研究』11-6、1961年
  • 大橋博 「明治21年「農事調査」をめぐる二、三の問題」 『農業総合研究』 18-2、1964年
  • 祖田修 『前田正名』 吉川弘文館、1973年

所在

附属図書館 貴重資料室 【貴X:170, 175, 178】