清水諫見氏旧蔵如来教関係史料

概要

解説

 本史料は、如来教信者の清水諫見氏(1902~1985)の手許に残されていた19世紀初頭から太平洋戦争後にいたる如来教関係史料200余点からなっている。1802(享和2)年、尾張国熱田で元武家奉公人の女性喜之(きの。姓不詳)によって創唱された如来教は、1927(昭和2)年、当時の東京帝国大学助教授石橋智信によってはじめて学界に紹介され、村上重良・安丸良夫編『民衆宗教の思想』(日本思想大系第67巻、岩波書店、1971年)の刊行によってさらに広く知られるようになった。

 後述するように、清水諫見氏旧蔵如来教関係史料(以下、原則として「清水氏史料」と略記する)は、1979年、同氏から一橋大学附属図書館に寄贈されたものだが、同史料の最終的な整理作業は、2020年から2023年にかけて、石原和、神田秀雄、吉水希枝の計3名の共同研究として行われた。なお、本研究は石原の個人研究費であるJSPS科学研究費補助金「近世近代移行期における教団未満の宗教者と新宗教をめぐる史的研究」(若手研究、課題番号:20K12822)の研究成果の一部として実施された。その研究成果物として、石原和・神田秀雄・吉水希枝編『近代如来教と小寺大拙―研究と史料』(一般社団法人日本電子書籍技術普及協会、2023年3月)が刊行されているが、ここに掲げる記事は、その共同研究の成果から、石原・吉水両氏の了解を得て神田がまとめ直したものである。より正確に言えば、当該史料群に関しては、後述するように、神田秀雄・浅野美和子編『如来教・一尊教団関係史料集成』(全四巻。清文堂出版、2003~2009年)にその一部を翻刻収載していたが、その段階では「清水氏史料」の史料整理作業は多くの未整理分を残していた。それに対し、2020~2023年の再整理では、はじめて全史料の写真撮影と目録化を完結させ、上記3名の共同研究成果物には、新たに多くの史料を翻刻収載したほか、再整理に携わった全員の研究論文も掲載している。

 この「解説」以下に掲げる本コレクションの「概要」や内容本体は基本的に、神田と石原が共同で撮影ないし作成したその「写真(画像)」と「史料目録」が中心を占めているが、上記共編著中、論文編の第一章(神田執筆)、および付録の「近代如来教史略年表(兼清水諫見氏略年譜)」(神田作成)、「『このたび』掲載記事一覧」(石原作成)、「清水諫見『スクラップブック』内容一覧」(石原作成)については、共編者の了解を得て本「概要」の「関連情報」として再掲している(「付録」は名称を変更し「諸表」とした)。そのため、如来教という宗教の歴史的性格や清水諫見氏の生涯、「清水氏史料」の成立事情等の詳細については、むしろ「関連情報」を参照されたい。

伝来

 1982(昭和57)年度に一橋大学大学院社会学研究科地域社会(日本)研究専攻博士後期課程を修了した神田秀雄〔1997年10月、博士(社会学・一橋大学)の学位を取得〕が、同過程在学中の1979年、当時の安丸良夫教授の賛同を得て、上記史料群を一橋大学附属図書館へ寄贈していただきたいとの趣旨を、如来教信者清水諫見氏に依頼し、同氏がその依頼に応じてくださった結果として寄贈が実現し、一橋大学附属図書館蔵「清水諫見氏旧蔵如来教関係史料」となったものである。

整理の経緯

 1979年の寄贈以来、「清水氏史料」は、その整理担当の役割を負った関係から、かなり長い間神田が手許にお預かりする形になっていた。また詳しくは後述するように、如来教関係史料は、「清水氏史料」以外に、一尊教団(1929年に如来教からの独立を宣言していた分派。その本部は当初、東京西巣鴨に所在する如来教の末庵東光庵に置かれていたが、1936年に金沢市弥生の如来庵に移転した)の所蔵史料が1971年までに公開されていたため、当時、如来教の研究に手を染め始めていた研究者は(村上重良氏はもちろん、神田・浅野も)、むしろ一尊教団所蔵の教典『お経様』の内容把握こそ何より重要だと考えていた。しかも『お経様』は、一尊教団から公開された書写本だけでも約250篇にのぼる膨大なものだったため(一尊教団が所蔵しない篇も数十篇あり、『お経様』の全篇数は約300篇にのぼるとも言われていた)、如来教関係史料の全貌を研究者や一般向けに伝えるにはどのような方法が適切なのか、出版事情が悪化の兆しを見せていた1990年代前半までには、その具体的な見通しを立てることは相当に困難だった。

 ただし、その頃までに神田と浅野は、金沢大学日本史研究室が撮影していた一尊教団所蔵史料(主には『お経様』の書写本)の写真版を、村上重良氏を介して順次借覧し、すでに原稿用紙に翻刻しており、その成果の一部は、村上重良校注『お経様-民衆宗教の聖典・如来教』(平凡社。東洋文庫313、1977年)として刊行されてもいた。しかし、1991年に村上氏の他界という事情も加わって東洋文庫としての『お経様』の続刊は困難な状況となったため、神田と浅野は、刊行を引き受けてくれる出版社をあらためて探索し、90年代後半になってようやく清文堂出版の「清文堂史料叢書」として刊行できる見通しを得た。

 その後の2003年8月、神田と浅野は、『如来教・一尊教団関係史料集成』と題する史料集(以下、『史料集成』と略称する)をようやく刊行に漕ぎつけたが、その際、文化元(1804)年から同10(1813)年までの『お経様』諸篇を収載した第一巻には、『お経様』諸篇の内容理解に資する史料として、教祖喜之の生前に成立した教祖伝『御由緒』(『史料集成』Ⅰでは史料番号を未付与。今回の『近代如来教と小寺大拙-研究と史料』(石原・神田・吉水の共編著)で、新規に1103の史料番号を付した)をはじめ、「清水氏史料」に含まれる複数の史料も同時に翻刻収載した。そして、その後の2005年と2007年に刊行した『史料集成』の第二巻と第三巻には、文化11(1814)年正月から文政3(1820)年4月半ばまでの『お経様』諸篇のみを翻刻収載したが、2009年刊行の『史料集成』第四巻(最終巻)には、文政9(1826)年5月に教祖喜之が入滅するまでの、編年順の『お経様』の残余分や年月日未詳の『お経様』諸篇のほか、一尊教団の所蔵史料から『文政年中おはなし』(文政3年、尾張藩による最初の統制を受けた後、教祖喜之が神憑りしない常態で行った信者との対話の記録。『史料集成』Ⅳ 40002100~40002200)、さらに「清水氏史料」からは、『文政年中御手紙』(教祖の生前に江戸の信者に当てた書簡の口述筆記録。『史料集成』Ⅳ 40003100~40003200。今回の『近代如来教と小寺大拙-研究と史料』では、改めて1104、1105の史料番号を付している)等のほか、教祖没後の指導者たちが幕末期から昭和期にかけて書き残した書簡・著述〔後述する『清宮秋叟覚書』(『史料集成』Ⅳ 40007300。『近代如来教と小寺大拙―研究と史料』の新規史料番号では4103)はその代表的な例〕や、彼らが関与して謄写版ないし活版印刷で出版した文書の一部等も翻刻収載した。

 これも詳しくは後述するように、当時の神田や浅野の認識では、『如来教・一尊教団関係史料集成』は、一尊教団の所蔵史料に欠けている史料を可能なかぎり蒐集して補いながら編集した史料集であり、そこで整理しようとしていたのは、一尊教団の所蔵史料と「清水氏史料」だけではなかった。しかも、『史料集成』の刊行以前のかなり早い段階で、神田が「清水氏史料」の内容に言及した論考をまとめていたことや、『史料集成』第四巻には、明治維新以降の如来教の教団史を詳細に記録した『清宮秋叟覚書』の全文を翻刻収載したという事情もあって、かなり高額な単価になる史料集を、同じ形でさらに継続刊行することはほとんど考えられなかった。そこで神田は、第四巻に「索引」と「史料目録・諸表」からなる2分冊の「別冊」を付すことで、如来教関係史料の存在・公開状況を仮に総括する形で公表し、「清水氏史料」のうちそれまでに整理を終えた分については、2011年3月、一橋大学附属図書館に返納した。しかし、『史料集成』に収載した『お経様』以外の諸史料の大部分は「清水氏史料」に属するものだったから、今日から顧みれば、実質的には『史料集成』の編纂自体が「清水氏史料」を整理する重要な機会だったことは確かである。また、第四巻の「別冊」における「清水氏史料」の未整理分に対する言及が多くの不備を残すものだったことも間違いなかったと言える。

 その後、そうした不備を指摘する声のあることが、むしろ「清水氏史料」以外の新史料の分析・検討に向かっていた神田の許へも間接的に聞こえてきた。そのため、『史料集成』への収載をほとんど想定していなかった未整理分(主には書簡類)に、2020年以降、今度は逆に重点を置く形で再整理を実施し、2023年3月、その作業を完了したわけである。

 以下、上記の石原和・神田秀雄・吉水希枝編『近代如来教と小寺大拙―研究と史料』から、神田・石原が執筆に関与したいくつかの記事を共編者の了解のもとに再録し、この史料群の成立、収載史料の階層構造や内容等の説明に替えたい。

史料リスト

清水諫見氏旧蔵如来教関係史料目録

1 教祖在世時代から幕末期までに成立した史料群
2 小寺大拙の書簡と遺墨
 2-1 小寺大拙書簡
 2-2 小寺大拙執筆の教義文書・遺墨等
3 明治・大正期に小寺大拙・清宮秋叟以外の如来教関係者が遣り取りした書簡・文書類
 3-1 明治・大正期の御本元および東光庵関係者が遣り取りした書簡
 3-2 明治期の東光庵関係者らが受領した公文書
4 大正末年以降太平洋戦争後にかけて成立した史料群
 4-1 清宮秋叟が毛筆で残した文書群(書簡を除く)
 4-2 昭和初年までの如来教の『開顕』運動に関する史料群
 4-3 清水諫見氏が受信・受領した書簡・文書等
 4-4 宗教団体法施行後の『単立教会』設立申請関連書類
 4-5 清水諫見氏が蒐集したと推定できる書籍・印刷物等
5 その他

関連情報

1 神田秀雄「『清水諫見氏旧蔵如来教関係史料』の基本的性格
2 諸表
 ・近代如来教史略年表(兼清水諫見氏略年譜)(神田作成)
 ・『このたび』掲載記事一覧(石原作成)
 ・清水諫見『スクラップブック』内容一覧(石原作成)
3 如来教関係史料の所蔵所と公開状況(神田作成)