西川孝治郎文庫

概要

解説

 和式帳合から洋式簿記への移行期にかけ日本で刊行された簿記書を網羅的に収集したコレクション。西川孝治郎(1896~1990.8.28) の寄贈による。1982年収蔵、419冊。

 文庫中で最も古いものは1873 (明治6) 年で、和式帳合から洋式簿記への移行期にわが国で刊行された主要な簿記書を網羅的に収集している。
 明治6年は日本の近代会計制度の出発点とされる年で、6月に福澤諭吉訳『帳合之法』が、10月に加藤斌訳『商家必用』、12月に大蔵省から『銀行簿記精法』が続いて出版された。『帳合之法』はH.B. Bryant and H.D. Stratton, Common School Book-keeping (1871)、『商家必用』はW. Ingils, Book-keeping by Single & Double Entry (1872) の翻訳で、『銀行簿記精法』は紙幣寮お雇い書記官A. A. Shandが日本で編集し5人の官員が翻訳したものである。『帳合之法』第2編 (複式) の出版は1874年6月なので、日本における最初の複式簿記書は『銀行簿記精法』とされている。西川孝治郎文庫には上述3種がすべて含まれている。

 西川自身の言によると、文庫のなかで特に希少なものは、
 ①海老原濟・梅浦精一訳『銀行諸帳面取扱手続書』
 ②福沢諭吉訳『帳合之法』第2編の初版本 (1874)
 ③宇佐川秀次郎・須藤時一郎訳『尋常簿記法』写本 (1882)
 ④商法編纂局『商事慣例類集』[1883]
である。
 『銀行諸帳面取扱手続書』はA. A. Shand, An Act to provide a national currency, secured by a pledge of United States bonds, and to provide for the circulation and redemption thereof (1864) の翻訳である。『帳合之法』第2編の初版本に関して西川は、「このコレクションの外にはない」と述べており、確かに慶応義塾大学にも所蔵がない (慶応大学が所蔵しているのは再版本) 。『尋常簿記法』はC. Hutton, A Treatise on Practical Arithmetic and Book-keeping の宇佐川の自筆翻訳本で、『日用簿記法』 (1978) の原稿に相当する。『商事慣例類集』は井上毅 (1843-1895) の旧蔵書で、目次ページにその蔵書印が確認できる。

 明治初期の商業教育に使用された教科書類の豊富さも、この文庫の特筆すべき点である。1872年の学制頒布後に文部省が刊行した小中学校の記簿法の教科書『馬耳蘇(マルシュ)氏複式記簿法』(1875)のほか、分量を減らし難易度も下げより初等教育に見合う形で刊行の相次いだ小冊簿記書として、城谷謙訳『小学記簿法独学』(1878)、遠藤宗義編『小学記簿法』(1878) 等が含まれている。初めて日本人が編集した小冊簿記書といわれる、栗原立一『記簿法独学』(1876) は西川文庫に含まれないが、当館に所蔵がある。

 西川孝治郎は、1920年に神戸高等商業学校を卒業して三菱商事に入社し、1950年に三菱石油に移り、1964年に日本大学商学部教授に就任した。日本の近代会計黎明期の簿記書をカバーする西川の優れた蔵書は国際的にも知られ、関西学院大学の小島男佐夫の蔵書とともに The Accounting Review, Vol. 45, Committee Reports (1970) に言及があり、1981年にはその研究業績に対して、The Academy of Accounting Historians より終身会員の称号を授与された。西川氏は一橋大学と直接的な関係を持たないが、1961年にはW.C. ホイットニー肖像画を、1982年には上述の網羅的かつ希少な蔵書を本学に寄贈してくださった。

伝来

1982年、西川孝治郎本人より寄贈された。

資料リスト

画像

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関連情報

※この資料は、デジタルアーカイブ「近代日本経済史・経営史」の収録タイトルです。

紹介文献

  • 森田哲彌 「西川孝治郎先生と明治期簿記書コレクション」 『鐘』第10/11号、1982年。
  • 西川孝治郎 「私のライフウヮーク」 『鐘』第10/11号、1982年。

所在

附属図書館 書庫 【nishikawa:】