平成18年度一橋大学附属図書館企画展示

江戸時代の豪農と地域社会 : 岡田家文書の世界

岡田家文書を用いた日本近世史研究

岡田家文書を用いた研究の歴史は古く、昭和29(1954)年の津田秀夫(1918-1992)による「封建社会崩壊期における農民闘争の一類型について」(『歴史学研究』168号 p.1-14、のち、津田秀夫著『近世民衆運動の研究』三省堂 1979 p.133-165)による国訴(こくそ)研究があげられる。津田は、岡田家文書の中で国訴の文言を発見し、近世後期の畿内において、1,000ヶ村を超える広域の訴願闘争が展開したことをこの論文の中で実証した。国訴研究は、一時活気を失ってしまうが、1980年代に入りその「惣代性」に着目した藪田貫等によって大きな潮流を形成した。津田の国訴の発見は、「猛烈な(古文書)調査」によって有名であった「畿内にこだわり、畿内を歩き続けた津田にふさわしい発見」と藪田によって評されている(藪田貫「近世の地域社会と国家をどうとらえるか」『歴史の理論と教育』第105号 1999.9 p.1-14)。

津田と本学の佐々木潤之介(1929-2004)は親交が深く、佐々木は津田から岡田家文書の紹介を受けたといわれている。『幕末社会論』(塙書房 1969 (塙選書 ; 68))や『世直し』(岩波書店 1979 (岩波新書 ; 黄-90))で展開される佐々木の豪農−半プロ論における豪農のイメージ(地主、高利貸・商人にして村役人)は、岡田家文書の分析を通じて形成された、といわれている。のち佐々木は、「幕末期河内の豪農」(『幕末社会の展開』岩波書店 1993 p.207-299)で岡田家文書の分析を主に経営面を中心に行い、幕末期における豪農の到達点と限界を論じている。佐々木によって展開された世直し状況論をいかに乗り越えていくのかは、現在でも日本近世史研究の重要な課題となっている。

 

また菅野則子は、「封建制解体期畿内農村の構造」(北島正元編『幕藩制国家解体過程の研究. 天保期を中心に』吉川弘文館 1978 p.23-71、のち、菅野則子著『村と改革』三省堂 1992 p.50-95)において幕末期の農民諸階層、とくに下層農民の実態を検討する論文を著している。岡田家文書は『藤井寺市史』においても用いられ、第2巻(通史編2(近世) 藤井寺市 2002)に舟橋明宏による論述(「岡村」「藤井寺村」)がある。さらに近世地域社会論の方法について論じた「地域社会の関係構造と段階的特質」(『歴史評論』599号 2000.3 p.43-58)、加筆して『一橋大学研究年報 社会学研究』39巻 2001 p.163-217)が渡辺尚志によって著されている。

『藤井寺市史』 ▲

なお、岡田家文書は岡田泰典氏によって仮寄託がなされ、平成13(2001)年に岡田績氏より本学附属図書館に譲渡された。記して感謝の意を表したい。

(一橋大学大学院社会学研究科博士課程 福澤 徹三)

一橋大学附属図書館 学術・企画主担当