複式簿記がやってきた!

明治初期簿記導入史と商法講習所

馬耳蘇氏記簿法

書名=馬耳蘇氏複式記簿法, 3巻 / 小林儀秀譯
出版事項=[東京] : 文部省 , 1875.3-1875.10
形態=3冊 ; 26cm
注記=Christopher Columbus Marsh著 The science of double-entry book-keeping の全訳
著者=小林, 儀秀<コバヤシ, ノリヒデ>
[ 所蔵事項 ] Nishikawa-9

nishikawa6

<内容>

 明治5年の学制頒布後、文部省が刊行した小中学校の記簿法の教科書。
 当時、福沢諭吉「帳合の法」や加藤斌「商家必用」があったが、文部省は自ら小、中学校教科書を編集刊行して「その体裁を表示」しこれを整備する方針であった(明治9年2月制定 報告課編纂書籍取扱心得)。
 初等教科書としては大冊に過ぎたが、実用書として会社等で広く長期にわたり利用された。

(1) 用語:学制の中では、佐沢太郎訳『仏国学制』明治六年文部省刊による "Tenue des Livres" の訳として「記簿法」が取り入れられ、文部省を中心として広まり、明治15,6年まで続いた。
"Trial Balance" を試算表と初めて訳す。「記簿法」という書名も初めて。単式・複式という名称もこの本で広まった。

(2) 数字:日本数字縦書きだが、商業計算にはアラビア数字横書きを用いる。

原本:師範学校の米人教師Marion M. Scot(1830-1922)が選んだとされる。

・ "A Course of Practice in Single-entry Book-keeping"(1871) 初版1853年、再版1855,59,61,64,68,71(=底本),76年

・ "The Science of Double-entry Book-keeping" (1871) 初版1830年、重版が50年以上続く(出版人、書名が異なる)。訳書の原本は1871年版。家具の減価償却の例示や借貸を赤黒と同じとするなど注目に値する内容。
Theoretical principles relating to the common terms Debtor and Creditorとして挙げられた七箇条のPrinciplesは『銀行簿記精法』(Nishikawa2他) に伝わる。『商業簿記教科書』(Nishikawa253, 254)にも訳出あり。

 西川氏は明治初期の簿記書を著者の経歴・著書成立の由来により、5系統に分けて理解している。「馬耳蘇氏記簿法」は文部省の系統の最初のもので、その後、『馬耳蘇氏記簿法試験問題』(Nishikawa-51)、『人民必携簿記提要』(Nishikawa-62)、『試験例題簿記講習全書』(Nishikawa-86)等が続いた。

<著者・訳者>

● Christopher Columbus Marsh (1806〜1884)
 アメリカ東部における早い簿記教師兼会計士のひとり。ブロードウェイに会計事務所を開いていた。

● 小林儀秀(のりひで)(小太郎)(1848-3.3〜1904.10.30)
 幕末英国公使館でErnest Satow, William Willisらに英語を学び、慶応義塾を経て明治4-5年欧州留学、8年文部省六等出仕・簿記書担当、のち東京図書館長・東京大学予備門長等歴任。西川氏は谷中で小林家の墓所を見つけ、儀秀の子と文通するうちに彼の足跡をたどることになった。

<成立と出版>

文部省は刊行後、全国に翻刻を許したので、6の表のように出版所8カ所(以上?)、印刷・製本も種々現存する。また文部省は出版を非常に急いで、特に単式は全部の翻訳を待たず脱稿するにつれ1冊ずつ出版されたため、誤字が多く、当初上中下の三冊本の予定が版行の途中で二冊本に変更したが、上巻の目次は翻刻後も訂正されていない。

<版式・構成>
「記簿法(馬耳蘇氏)」

Nishikawa-11

(表紙)濃藍色網目模様地紋入(艶出し)/「馬耳蘇氏記簿法 一、二」
(見返し)上、下巻にあり/雌黄色/(上)「明治八年三月 馬耳蘇氏記簿法 文部省」 (下)「明治八年十月 馬耳蘇氏記簿法 文部省」/上巻にのみ小判形文部省印
(奥付)なし
(巻表示)表紙は「一、二」、版心は「巻上、巻二」、目次は「巻上、巻中、巻下」、上巻の本文初めと終わり、下巻の終わりには「巻之上」「巻之二」

Nishikawa-12

(表紙)濃藍色網目模様地紋入(艶出し)/「馬耳蘇氏記簿法 一、二」
(見返し)上、下巻にあり/うす黄色/(一)「明治八年十月 馬耳蘇氏記簿法 文部省」(二)「明治八年三月 馬耳蘇氏記簿法 文部省」
(序文)単式と複式の用語に誤りがある。
(奥付)「明治九年九月廿七日翻刻御届 翻刻人 東京府平民 山中市兵衛」
(巻表示)Nishikawa-11と同じ

Nishikawa-13

(表紙)濃藍色網目模様地紋入(艶出し)/「馬耳蘇氏記簿法 一、二」
(見返し)上、下巻にあり/雌黄色/(一)「明治八年三月(一帙) 馬耳蘇氏記簿法 文部省」(二)「明治八年十月(二帙) 馬耳蘇氏記簿法 文部省」
(小口)「記簿法一、二」
(奥付)「明治九年十月三日翻刻御届 翻刻人 東京府平民 山中市兵衛」
(巻表示)Nishikawa-11と同じ 
Nishikawa-12(見返しの年月・単式と複式の誤りがある)の訂正版?

Nishikawa-14

(表紙)濃藍色網目模様地紋入(山梨日日新聞の上に色を塗ったもの)/「翻刻 馬耳蘇氏記簿法 一、二」
(見返し)上、下巻にあり/色なし/(一)「明治八年三月 馬耳蘇氏記簿法 翻刻文部省」(二)「明治八年十月 馬耳蘇氏記簿法 翻刻文部省」
(小口)「馬氏記簿法一、二」
(奥付)上、下巻にあり/「山梨県師範学校御書籍発兌所 | 甲府常磐町四番地 内藤伝右衛門 東京通監町十一番地 同支店」
(巻表示)Nishikawa-11と同じ

Nishikawa-16

(表紙)「明治八年三月 同年十月 馬耳蘇氏記簿法一二 文部省」
(巻表示)表紙は「一、二」、目次は「巻上、巻中、巻下」
(奥付)「明治十年十月二十日御届 同年十二月一日出版 | 翻刻出版人 中村熊次郎 同 海野幸正」

Nishikawa-27


(表紙)「文部省御蔵版翻刻 馬耳蘇氏記簿法壱弐 吉岡書房発行」
(巻表示)表紙は「一、二」、目次は「巻上、巻中、巻下」
(奥付)「明治十一年十二月六日翻刻御届 | 翻刻人 大阪府平民 吉岡平助」

Nishikawa-28

(表紙)修理製本
(標題紙)「明治八年三月 同年十月 馬耳蘇氏記簿法一二 文部省」
(奥付)「明治十一年十二月七日翻刻御届 同年同月出版発兌 翻刻出版人 大阪府平民 柳原喜兵衛 同 同上 辻本信太郎」

Nishikawa-29

(表紙)濃藍色輪繋ぎ模様地紋入(艶出し)
(見返し)上巻のみ/色なし/「明治八年十月 馬耳蘇氏記簿法 文部省」
(刊記)下巻のみ/「明治十二年一月出版 翻刻出版人 中外堂 柳河梅治郎」
(巻表示)Nishikawa-11と同じ
「複式記簿法(馬耳蘇氏)」

Nishikawa-9

(表紙)濃藍色網目模様地紋入(艶出し)/「馬耳蘇氏複式記簿法 小林儀秀訳 上中下」
(見返し)上巻のみ/雌黄色/「明治九年九月 馬耳蘇氏複式記簿法 文部省」/小判形文部省印
(目次)上、下巻にあり(中にはなし)下巻の内容は上巻の目次と異なる
(奥付)なし

Nishikawa-24

(表紙)黄色/「馬耳蘇氏複式記簿法 小林儀秀訳 上中下」
(見返し)赤色/「明治九年九月上中下合本 馬耳蘇氏複式記簿法 文部省」
(奥付)「明治十一年二月廿五日御届 同四月二十日出版 | 翻刻出版人 中邨熊次郎」(Nishikawa-26と同時出版)

Nishikawa-25

(表紙)紫色網目模様地紋入(艶出し)/「馬耳蘇氏複式記簿法 小林儀秀訳 上中下」
(見返し)上巻のみ/雌黄色/「明治九年九月 馬耳蘇氏複式記簿法 文部省」
(刊記)下巻のみ/「明治十一年四月出版 翻刻出版人 中外堂 柳河梅治郎」

Nishikawa-30

(表紙)「翻刻 明治九年九月上中下合本 馬耳蘇氏複式記簿法 文部省 響泉堂銅刻」
(標題紙)赤字
(奥付)「明治十二年一月六日 翻刻御届 | 翻刻出版人 大阪府平民 吉岡平助」
 「記簿法・複式記簿法(馬耳蘇氏)」(単複合本)

Nishikawa-26

(標題紙)「馬耳蘇氏 明治八年三月 同年十月 記簿法一二 明治九年九月 複式記簿法上中下 合本 文部省」

(奥付)「明治十一年二月廿五日御届 同四月二十日出版 | 翻刻出版人 中邨熊次郎」(Nishikawa-24と同時出版)

6. 版本の系譜

Nishikawa-16Nishikawa-26(単式の部分)、Nishikawa-24Nishikawa-26(複式の部分)は版が同じ。国立国会図書館のOPACによればこれ以外にも翻刻版の出版者は存在すると考えられる。西川氏の蔵書に「新橋三井物産会社荷物方」の蔵書印のあるものがあったようだが、西川文庫には該当がなかった。文部省刊行のものには初版本と訂正版があったが西川文庫のものは訂正版。

  単式の部 複式の部 単複合本
出版年 木版大形
和本二
活版中形
洋本一
銅版小形
和本一
銅版小形
洋本一
木版大形
和本三
銅版小形
和本一
銅版小形
洋本一
銅版小形
洋本一
明治8年 Nishikawa-11 文部省              
明治9年 Nishikawa-12 山中市兵衛 Nishikawa-13 山中市兵衛       Nishikawa-9 文部省      
明治10年 Nishikawa-14 内藤伝右衛門   一※ Nishikawa-16 中村熊次郎、海野幸正        
明治11年       Nishikawa-27 吉岡平助 Nishikawa-28 柳原喜兵衛、辻本信太郎 Nishikawa-25 中外堂(柳河梅治郎) Nishikawa-24 中邨熊次郎 三※ Nishikawa-26 中邨熊次郎
明治12年 Nishikawa-29 中外堂(柳河梅治郎) 一※         Nishikawa-30 吉岡平助 一※

※ 西川氏が所在を確認したが、本学に所蔵がないもの


<伝来>

(西川孝治郎氏が一橋大学附属図書館へ寄贈)

Nishikawa-11:上巻「(蔵書印)巖?齋古典?波多埜??書」

Nishikawa-12:下巻(奥付)「カサ?幸関二」

Nishikawa-13:上巻(背)「榎本氏」

Nishikawa-14:上下巻「阪口氏蔵書印」→「越後頸城郡上猪子田邨永井氏之蔵」

Nishikawa-9:下巻「巌松堂書店」

Nishikawa-24:「桝屋書店」

Nishikawa-26:(標題紙)「平尾」(奥付)「宮川蔵(印)」、「山佐」


参考文献

  • 『日本簿記学生成史』雄松堂書店 1982.6
  • 『近代会計百年−その歩みと文献目録』日本会計研究学会 1978.11
  • 西川孝治郎「馬耳蘇氏記簿法とその著者」(『企業会計』6(3) 1954.3)
  • 西川孝治郎「「馬耳蘇氏記簿法」に就て」(『会計』41(5) 1935.5)
  • 西川孝治郎「小林小太郎」(『三田評論』1964.5)
  • 西川孝治郎『日本簿記史談』同文館 1971.1

記簿法(馬耳蘇氏)

C.C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 文部省 明9.9 →(上)明8.3(下)明8.10

和2冊(上55,下83丁) 26cm

*表紙「(馬耳蘇氏)複式記簿法 上,中」 →「(馬耳蘇氏)複式記簿法 一,二」

Nishikawa-11

複式記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 文部省 明9.9

和3冊(上95,中100,下35丁) 26cm

上,中の表紙「馬耳蘇氏記簿法 一,二」 →表紙「馬耳蘇氏記簿法 上,中,下」

Nishikawa-9

記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 山中市兵衛 明9.9

和2冊(上55,下83丁) 26cm

蔵版:文部省

Nishikawa 12

複式記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 中村熊次郎 明11.4

和137丁(上,中,下合本版) 19cm

蔵版:文部省

Nishikawa-24,24A

記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 山中市兵衛 明9.10

和2冊(上55,下83丁) 26cm

蔵版:文部省

Nishikawa 13

複式記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 中外堂 明11.4

和3冊(上95,中100,下35丁) 26cm

蔵版:文部省

Nishikawa-25

記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

甲府 内藤伝右衛門 明10.3

和2冊(上55,下83丁) 26cm

蔵版:文部省

Nishikawa 14

複式記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

大阪 吉岡平助 明12.1

137枚(上,中,下合本版) 17cm

蔵版:文部省

Nishikawa-30

記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 中村熊次郎,海野幸正 明10.12

36,52枚 18cm

蔵版:文部省

Nishikawa 16

 

記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

大阪 吉岡平助 明11.12

36,51枚 17cm

蔵版:文部省

Nishikawa-27

 

記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

大阪 柳原喜兵衛,辻本信太郎 明11.12

36,52枚 18cm

蔵版:文部省

Nishikawa-28

 

記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 中外堂 明12.1

和2冊(上55,下83丁) 26cm

蔵版:文部省

Nishikawa-29

記簿法・複式記簿法(馬耳蘇氏)

C. C. Marsh著 小林儀秀訳

東京 中村熊次郎刊 明11.4

1冊18cm

蔵版:文部省

Nishikawa-26

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