複式簿記がやってきた!

明治初期簿記導入史と商法講習所

借方と貸方

 勘定は、左と右に分かれており、左側を借方、右側を貸方という。この借方、貸方という言葉は、初めて簿記を学ぶ人には異様に響くらしく、これまでにも多くの人たちからこの言葉の由来などについて質問を受けた。その場合に私はいつも「簿記では伝統的に勘定の左側を借方、右側を貸方という。最初は意味があったが、現在では元の意味を失っている」と答えている。

 しかしなかには「その元の意味を教えて下さい」とか、「どうして元の意味を失ったのですか」などとさらに質問する人もいる。それは熱心さのあらわれであるから、私もイヤな顔はしないで次のように答える。

「もともと簿記は債権・債務の記録から始まった。たとえばAがBに商品を掛売りしたとすれば、Aが債権者、Bが債務者である。したがってAはBに対する債権を記録するのであるが、この場合にAは、Bという人名勘定を設け、Bは当方に対して借り手であるとして左側に書いた。借方とは借り手という意味である。
 しかし記録の範囲が債権・債務だけでなく、商品や建物などの財貨、さらには給料とか受取手数料などの費用・収益にも及ぶようになると、借り手とか貸し手とという意味は全く失われ、単に左側、右側を指すだけになる。」


中村忠, 会計学放浪記 1994.9 白桃書房 pp.103-104 より

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