複式簿記がやってきた!

明治初期簿記導入史と商法講習所
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家計簿記書(家計簿)

(1)前史
 近世期は家業と家計が未分離。主に一家の主人が家計も差配していた。
 明治初期の簿記書には「家計簿」という考えはない。(豪農の家計を扱ったとされる『複式啓蒙記簿法楷梯』も、家業経営費と冠婚葬祭費が混在。)

(2)家計簿という考え方の登場
 ★近代初期、家政書にはじめて登場する。
(女黌必讀)女訓 / 高田義甫述 ; 伊藤桂洲書
東京 : 北畠千鐘房(須原屋茂兵衛), 1874.(M7)
(『女大学集』(東洋文庫302所収)*0800**12**302) 
内容: 女性の日常の心がけを説いた女訓書。近世の婦道観をもととしながらも維新後の文明開化的な女性観をとりこもうとしているところに特徴。
著者: 高田義甫は滋賀県の人。
本文: 「女は、諸芸に達し、博学多才なる者にても、経済治まらざる時はその甲斐なし。記帳・算用することをよく学び置き、出納を細かに記し、少しにても無益の事に財を費やすべからず」

家事儉約訓 / 永田健助譯
[東京] : 文部省
    [東京] : 出雲寺萬次郎 (發兌) , 1874.3 (M7)
2冊 ; 23cm(百科全書)
明治文庫**Xb*22*A*14
内容: 初期の家政書。女学校の家事経済の教科書としても用いられた。
本文: 上之巻「家務ヲ管理スル方」に
「一家ノ主婦タルモノハ凡テ其家ノ出納ヲ日々算計シ無益ノ費ナキヤウ注意スルヲ其任トス」
構成: 日記簿、正簿(モトチョウ)

家事經濟訓 / 青木輔清編述 ; 羽山尚徳校正
東京 : 同盟舎 , 1881.4(M14)
2冊 ; 23cm
Tsuchiya**I*280**
本文: 巻之一 第三章「經濟ノ事」に
「一家ノ經濟ハ多ク主婦タル者ノ関カル所ナレバ宜シク此ニ注意シ瑣末ノ事ト雖モ必ズ粗略ニセズ無用ノ費エヲ省キ之ヲ有用ノ事業ニ用ルノ准備ト為スベシ」
巻之二 第十七章「家事出納計算ノ事」に
「簿記法トテ出納ヲ明瞭ニスル記載法アリ其法タル計算比較ニ簡便ニシテ聊カ煩ハシキコトナシ」
構成: 雑費出納帳、日々出入帳、出納金日表

(3)家計簿記書の登場
★初期の家計簿記書
臺所勘定表 / 植木綱次郎著||ダイドコロ カンジョウヒョウ
[出版地不明] : [出版者不明] , 1875.4(M8)
1冊 ; 33cm
Nishikawa 8
内容: 明治八年の家計簿
本文: 「此表ハ元台所勘定帳なれハ台所の入用ハ一目瞭然なり店あきなひや納戸雑用も此表に倣ふて作るべし」
構成: 毎月勘定表、総勘定表

(毎家必要)家内用帳合 / 甲斐織衛著述
神戸元町 (兵庫縣) : 甲斐織衛 , 1879.12 (M12)
1冊 ; 24cm
Nishikawa 47
内容: 女学校の参考書としての編集を意図したもの。
著者: 甲斐織衛は慶應義塾出身、神戸商業講習所支配人
序文: 「豫算の目的を誤らす家計能く整ふの功は多くは婦人細君たるものの内政宜しきにあるものなり」
「女學校の設け漸次盛んにして學ぶ可き課目略具はるが如しと雖も未だ帳合學を教ふるもの甚だ少なきは遺憾と云ふ可きなり」
構成: 当座帳、月費帳、年費帳、金銭出入帳、物品口取元帳

★複式の時代
(實地應用)家計簿記法 / 藤尾録郎著 再版
東京 : 經濟雜誌社
        東京 : 小林新兵衛 (賣捌) , 1887.10
7, 27, 45p ; 22cm
Nishikawa 119 M20
内容: 明治21年1月16日文部省検定済高等小学校教科用図書。
学校教科書として広く普及
著者: 藤尾は元大蔵省銀行学伝習所長、著書に銀行簿記例題あり
序文: 田口卯吉序「近日此書を著はして婦女子の習學を促されたり」
自序:「夫れ男子は剛健にして外を治め。女子は貞固にして内を守る。是れ古今の通理なり。」「世の妻女諸君に切望するところは。一家の経済を整理すべき計算簿記を心得られんこと是なり。」
構成: 元帳(収入金・負債・経費金・財産)、日記帳、賄費仕払帳を用いる複式

(實地應用)家計簿記法例題 / 藤尾録郎著
東京 : 経済雑誌社 , 1887.6
27, 37p ; 22cm
Eh19, Eh45
内容: 上述の『 (實地應用)家計簿記法』を受けて、記帳練習用例題だけを内容とする書物

原理應用簿記學大全(普通商業合名會社株式會社工業會社家計簿記 / 片山直治著
東京 : 片山直治 , 1890.5 (M23)
乙(2), 58, 59p ; 19cm
Nishikawa162・163
奥付: Nishikawa163は1891(M24)年第二版
内容: 東京簿記学院の教科書
家計簿の分量は多くない

複式家計簿記學例題 / 御宿正定著 再版
[名古屋] : 愛知簿記學校 , 1902.11(M35)
16p ; 19cm
Nishlkawa 249
内容: 分野ごとの例題書を多数著述した御宿がそれを家計簿にあてはめたもの。
奥付: 初版は明治30年
著者: 御宿正定は例題書の著作多数
表紙: 「愛知簿記学校」とあり
構成: 日記仕訳帳、元帳、出納帳、財産記入帳を用いる複式

實地應用簿記學教科書(第4巻 家計) / 大原信久著 再版
東京 : 東京簿記精修學館
東京 : 金港堂 (賣捌) , 1900.8 (M33)
2, 4, 2, 86p ; 19cm
Nishikawa***215**
著者: 大原は簿記精修學舘長。簿記書の著作多数
表紙: 「私立東京簿記精修學舘出版」とあり
奥付: 初版は明治26年
序文: 「婦妻タル者自ラ進ミテ家政を執リ、良人ノ外務ニ対シ内事ヲ司ルノ責ニ坐セザルヲ得ズ 其之ヲ要スルニタダ一家ノ会計ヲ整理スルノ術ニアルノミ 其之ヲ整理スルノ術ヲ利スル要具ハタダ簿記學ニ若クハナシ」
構成: 日記帳、原帳、日計表、決算表を用いる複式

最近家計簿記學例題 / 守田整義著
東京 : 日本簿記專門學校出版部
東京 : 大倉分店 (大賣捌) , 1902.4 (M35)
1冊 ; 20cm
Nishikawa 299
内容: 書生簿記、質屋簿記、農業簿記等と合冊。
著者: 守田整義は他にも簿記関係の著書多数。
表紙: 日本簿記専門学校出版
構成: 金銭出入帳、元帳、賄支払帳、日計表、月計表、損益勘定帳、残高勘定帳、損益計算書、貸借対照表、財産目録、財産原簿、諸預ヶ金内訳帳、消費額見積表、貸付金内訳帳からなる複式

實踐家計簿記 / 東◆S1598◆五郎校閲 ; 野原徹輔著述 再版
東京 : 實業之日本社
        東京 : 東京堂 (大賣捌) , 1903.1 (M36)
2, 3, 6, 124p ; 23cm
Nishikawa 295
著者: 校閲者は高等商業学校教授の東[せき]五郎
奥付: 初版は明治35年
凡例: 「小学校以上の女学校における家計簿記の参考書たらしむると同時に一つには一般家族の主たる可き婦人其他内政を司る可き人々に家計を整理せしむるの目的を以って編」
本文: 「家政を整理し、夫をして内顧の憂なからしむるものは一家の主婦たるものの責なりとす。されど世の婦人たち多くは夫に依頼し一つも家政生理の局に当らず・・・家計簿記習得の必要ある所以なり」で始まる。
構成: 単式・複式両方を解説

★家計規模に合わせた記述の提案
家計簿記学 (通俗教育全書第99編) / 石橋多喜郎著
東京 : 博文舘 , 1894.4 (M27)
3, 129p ; 20cm
Nishikawa 222
内容: 簿記学全体から、家計簿についても説明している。
簿記学の定義、家計簿記学の定義、家計簿の特性なども含み、最も内容豊か。
著者: 巻頭には石橋多喜郎, 松本平太郎著とあり。
石橋は長野尋常中学校教諭
構成: 第一式は現金出納帳のみ、第二式は日記帳と雑費帳、第三式は日記帳、賄帳、資産負債帳、第四式は日記帳、元帳、賄帳、元帳一覧、資産負債一覧=家計規模に合わせて段階的に記述。
日記帳金額欄を費目別にしたのが特徴。

家計簿記 / 大谷登喜雄著
東京 : 嵩山房
    大阪 : 前川善兵衛 (大賣捌) , 1897.5 (M30)
3, 50, 2, 46p ; 23cm
Nishikawa 243
序文: 「凡そ家計の仕組みは家々に依り多少の相違あるべしと雖も之が整理の任に当る者は概ね其家の主婦に在りと云ふべし」
構成: 第一部は金銭出入帳と支払金内訳帳、第二部は元帳、第三部は日記帳=家計規模に合わせて段階的に記述。

★簡便を旨とする時代へ
普通家計簿記法 / 古谷傳著 ; 野口保興閲 訂正再版
東京 : 大日本圖書 , 1896.4 (M29)
4, 99p ; 23cm
Nishlkawa 239
内容: 尋常師範学校、高等女学校の教科書
奥付: 初版も明治29年
見返し:明治二十九年文部省検定済 尋常師範学校高等女学校家事科用
序文: 細川順次郎序
緒言: (著者識)家計簿の必要及び主簿者の心得を説く
本文: 「凡そ一家の主婦たるものは・・・就中一家経済のことより肝要なるものはあらざるべし」
「多くの時間と手数とを要する仕組のものは實際に於て到底行はれ難し是を以って其の仕組は可成簡易にして實行に容易なるものを選ばざるべからず」
構成: 現金出納帳と諸勘定内訳長を用いる

家計簿記法(家事教科書続編) / 後閑菊野, 佐方鎭子合著 3版
東京 : 目黒甚七 , 1901.7(M34)
2, 2, 83p ; 23cm
Nishikawa 272
奥付: 初版は明治32年
著者: 後閑は女子師範学校小学師範科卒
東京女子高等師範学校で教鞭をとる→家事教科書への影響大
序文: (著者)「其煩に堪へず中途にして廃止するに至ることあるべし」「専ら実用簡易を主とし」「単記の方法を執れり」
構成: 賄帳、日用帳、月々計算表、年計表
財産の異動頻繁なる家にては財産表を附ける

(新帳合法)和式家計簿記獨習書 / 和田昌夫講述
大阪 : 大阪共立簿記學校獨習部
大阪 : 岡島新聞舗(賣捌) , 1901.3 (M34)
2, 89p ; 23cm
Nishikawa 291
表紙: 大阪共立簿記学校独習部
緒言: 簿記学校或は女学校で教へて居る家計簿記は、複記式と云ふ法式の仕組で」「ソレデはトテモ誰れ彼れの嫌ひなく記帳できる訳にゆかぬ」「普通の家で婦人が家政の傍らに記帳するには頗る不適当であろう」「簡易にして実用に適する事とが、是れ則ち新帳合法たるの特色である」
構成: 日記帳、収入帳、仕払帳、計算帳、財産帳、賄費小払帳を用いた単式

(實用簡易)家計簿記法 / 松永友藏著
静岡 : 静岡簿記學舘 , 1901.5 (M34)
35, 40p ; 19cm
Nishikawa 287
表紙: 静岡簿記学館発行
序文: 「実用簡易家計簿記法にして其何人にも分り易きは受合なり」
構成: 金銭出入帳、補助簿(口別帳、資産負債一覧表)

家計簿記教科書 / 勝村榮之助著
大阪 : 積善舘 , 1901.2 (M34)
2, 2, 132p ; 23cm
Nishikawa 286
内容: 高等女學校女子師範學校等の教科書
著者: 東京簿記全修学校校主。簿記書の著作多数。
凡例: 「本書ハ高等女學校女子師範學校等家事科ノ設ケアル學校ノ教科書トシテ著作ス」
序文: 「家計簿記ノ如キモ亦一家経営ニ於ケル婦女ノ任務中重要ナルモノノ一トス」
「収入支出及財負ノ整理ヲナスニ複式簿記帳ヲ以テスルハ實ニ容易ノ業ニアラサルヤ勿論ナリ茲ヲ以テ家計簿記ハ可及的簡易ナル帳簿ノ組ヲナシ其繁劇ナル家庭ニ在テ容易ニ之ヲ履行セシメサルヘカラス」
構成: 複記式、准複記式(現金出納帳を主要帳とする)

(4)その後の家計簿の発展
(高等教育)家事経済教科書 (下巻 家計簿記) / 松平友子著 第3版
東京 : 文光社
東京 : 目黒書店 (發賣) , 1937.3 (S12)
2, 6, 193, 4p ; 23cm
Nishikawa330
奥付: 初版は昭和9年
著者: 松平は東京女子高等師範学校講師。家政学の著書多数。
序文: 「旧著は必ずしも専ら教科書たることのみを主眼とせず、一般家庭の婦人にも、参考書若しくは自習書として読まるべきことを意圖して述作せしが、これをその間、女子専門學校並に高等女學校専攻科に於ける家事経済科教科書として自ら使用し、その得たる実地経験に鑑みて内容並びに体裁を工夫し、この度、専ら教科書用として本書を著述した」
構成: 簿記の意義、種類にはじまり、家計簿記の単式・複式ともに解説し、内容豊富。

  1950年代〜  = 婦人雑誌の附録としての普及
  1975年〜  =  新婦人家計簿運動
  1990年代〜 =  パソコンでの家計簿作成

まとめ
 家計簿という考え方は、近代初期の家政書に登場するところから始まる。近世以来の衣食や育児への勤めに加えて、家計を取り仕切ることが女子の勤めとされることになる。(個人的な関心から言えば、男は外、女は内という近代家族の出現=主婦の成立は、産業化が進展し俸給生活者が増加する大正期といわれていることと「主婦」役割の言説の登場について未整合。)
 一方で、家計簿成立の背景には近世から近代へかけての家業と家計の分離の進行があった。初期の家計簿記書は主に、簿記学者によって著述され、明治以降の日本が取り入れた複式簿記法を、家計にも当てはめようとするものであった。明治中期、簿記学校の流行の中で家計簿記を学科目とする学校も出現し、この時期の家計簿記書は教科書として著述されたものも多い。
 女子教育においては、明治初期に女学校・女子師範学校が設立されるが、その学科の中で記簿学が採用される。明治28年には家計簿記が家事科の一つとして位置付けられ、本格的な女子教育のための家計簿記教科書が記述された。
しかし、簿記教育と実際の家計簿の普及とには、若干の乖離が見られた(女子に家計簿記があるにもかかわらず、この時期、主簿者も必ずしも女性ではない)。その結果、その繁雑さが問題視されることになり、家計簿記書や家計簿記の教科書の記述は次第に簡便さを強調するものに変化していく。家計簿自体が各家計の規模に規定されるという特色を持っていたこともその一因である。単式への回帰と家計規模に合わせた記述へという方向が明治20年代末にはすでに見られる。
 その後(特に戦後)の家計簿の展開をみると、1953年頃より婦人雑誌が競うように家計簿を新年号の附録とするようになり、家計簿は主婦の勤めとして定着する(1960年の調査で主婦の記帳担当率82.9%)。家計簿の効用を説く記事も散見される。1975年からの新婦人家計簿運動では、物価問題に主婦が大きく関与していく運動原理として家計簿が注目されることになった。近年の新たな動きとして、パソコン雑誌等での入門教材として家計簿が取りあげられることが増えている。私見だが、女性でもできるという「簡単=主婦」という観念と、主簿者たる女性をパソコン購買者としてターゲットにした動きだと考えられる。




<参考文献>
  • 家計簿記に関する史的考察-1〜3- / 三東 純子(東京家政学院大学紀要. 14・15 [1975.09], 17 [1977.05], 20 [1980.05])
  • 家計簿記普及上の諸問題-1〜3- / 三東 純子(家政学雑誌. 11(1) [1960.04], 11(3) [1960.07] ,12(1) [1961.04] )
  • 女の戦後史-50-家計簿--主婦が書き続けた"家庭史"の歩み / 宮崎 礼子(朝日ジャーナル. 26(11) [1984.03.16] **ZA*173*)
  • 我が国家計簿記史考-1〜3- / 三代川 正秀(経営経理研究. 44[1990.03], 45 [1990.09], 48 [1992.03] **ZD*185*)
  • 新婦人家計簿の発祥と歴史 (新婦人家計簿運動25周年) / 岡野 登美子(女性&運動. (68) (通号 219) [2000.11])
  • 明治前期家計簿記書史考 / 西川孝次郎(会計 48(1) [1941]  **ZE*2*)
  • 『日本簿記史談』 / 西川孝次郎 (同文館出版 , 1971.1)
  • 法・「家」・社会 / 奥田和美 (『女性史を学ぶ人のために』世界思想社 , 1999 *3670**623**)
  • 日本における性別役割分業の形成 / 千本暁子 (『日本家族史論集』11 吉川弘文館 , 2003.3 *3610**1983**11)
  • 今井泰子 / <主婦>の誕生 (女性学 1[1992])
  • 三代川正秀, 日本家計簿記史 : アナール学派を踏まえた会計史論考. 税務経理協会 1997.3

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