複式簿記がやってきた!

明治初期簿記導入史と商法講習所
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大蔵省銀行学局から銀行事務講習所へ

「大蔵省銀行学局は、わが国で最も早い簿記教育ないしは、洋式商業教育の機関である。
 その創立は、明治7年4月ですが、その芽生えはそれより2年前、翻訳局設置のときにあらわれている。」

 大蔵省は、明治5年6月、翻訳局を設けて、外国書の翻訳や銀行要員養成のために有給生徒を募集しました。この翻訳局の合格者には、小池清一(後貴族院議員)、島田三郎、田口卯吉、高梨哲四郎(後衆議院議員)、三輪信次郎(後銀行学局教官)など錚々たる人々がいましたが、明治7年7月31日に閉鎖されています。

 明治7年4月、紙幣寮銀行課の一部局として、大蔵省銀行学局が設立された。これは、明治5年既に雇い入れられていたA.A.シャンドの勧めによるものであり、実質的に先の翻訳局を引き継ぐものでした。

 これは、大蔵省内部のものですが、日本で最初の商業教育機関と言ってよいでしょう。

銀行学局規則第一条

当課中(銀行学局のこと)において銀行学講究の一部を設け、各銀行業務に関する諸条例の成規および簿記の方法を調査し、または洋書について訳出し、例規の便否を詳悉し、今後の考案を尽して紙幣頭に稟議するを主務とすべし
 


▲「紙幣寮官籍」の蔵書印を持つ「銀行簿記精法」

銀行学局長には、日下義雄がなり、後に宇佐川秀次郎がなっています。

書  名 = 日用簿記法 : 完 / チャ-レス・ハットン [著] ; 宇佐川秀次郎 [訳]
出版事項 = [出版地不明] : [出版者不明] , 1878.1序
形  態 = 60p ; 21cm
注  記 = 別冊付録: 單複日用簿記雛形 (28枚 12X17cm)
       A complete treatise on practical arithmetic & book-keeping の抄訳
       巻之上と巻之下を合本
著  者 = Hutton, Charles, 1737-1823
       宇佐川,秀次郎(1849-1881)
[ 所蔵事項 ] Nishikawa***19**

書  名 = 尋常簿記法
出版事項 = [出版地不明] : [出版者不明] , 1882.4
形  態 = [33丁] ; 24cm
注  記 = 題簽標題: 尋常簿記法 : 單記複記 : 全
       写本: 吉川一雄 写
ローカル注記= 「尋常簿記法」 (C. Hutton 著 宇佐川秀次郎訳) と同内容
[ 所蔵事項 ] Nishikawa***332**

nishikawa-333

 明治9年銀行学局は廃止され、明治10年12月、銀行学伝習所が開設(宇佐川秀次郎学頭)、教師には藤尾録郎「實地應用家計簿記法」Nishikawa-119 の著者)などがいました。
 この銀行学伝習所も明治12年6月30日には廃止、旧銀行学伝習所の教官が諸器械類を下賜され大蔵省官用地を借用して簿記学伝習所を開き、卒業生56名を出しましたが、これも明治15年はじめには閉鎖されています。  

 明治15年2月7日、銀行局長加藤斉は、簿記学伝習所を廃し、その跡に、銀行局直属の銀行事務講習所を開設しました(開校は4月)。
 藤尾録郎が所長心得となっています。
 藤尾録郎と田中三郎が、銀行学伝習所の閉鎖にあたり、その資料をまとめた「銀行簿記例題」を教科書として使ったと思われ、その記帳演習の結果が、「銀行簿記例題解式」としてまとめられています。
 銀行事務講習所の講師には、遠藤敬止(1849(嘉永2)年〜1904(明治37)年、七十七銀行第二代・四代頭取、元会津藩士。慶応義塾に学ぶ)などもいました。

書  名 = 銀行簿記例題 / 大蔵省銀行課編纂
出版事項 = 東京 : 佐久間貞一 , 1879.5
       東京 : 小林新兵衞 : 秀英舍 (發兌)
形  態 = 2冊 ; 23cm
ローカル注記= *Ef**23**, *Ef**23*A*に「銀行事務講習所」の蔵書印あり
著  者 = 大蔵省銀行課
[ 所蔵事項 ]
118046300N 国立 準貴重資料(貴重資料室)*Ef**23**上 (/1) 準貴重資料
118051214N 国立 書庫Nishikawa***339**上 (上/1)
>>

書  名 = 銀行簿記例題
出版事項 = [出版地不明] : [出版者不明] , 1---
形  態 = 3冊 ; 24cm
注  記 = 上:本店下半季. 中:大阪支店下半季. 下:新潟支店下半季
       手稿
       銀行簿記精法の練習の為に書かれたもの. 大蔵省銀行課編「銀行簿記例題」に続く(日付が続いているので)ものとみられる
[ 所蔵事項 ] Nishikawa***352**
>>

書  名 = 銀行簿記例題解式 : 附半季決算法 / 大蔵省銀行局編纂
出版事項 = 東京 : 佐久間貞一 , 1884.12
形  態 = 4冊 ; 24cm
注  記 = 「本店」「支店」に分冊刊行
       和装
著  者 = 大蔵省銀行局
分類番号 = NDC6:679
[ 所蔵事項 ]
1181698371 国立 準貴重資料(貴重資料室)*Ef**24**1

 銀行事務講習所は、明治19年3月31日、政府直轄学校をすべて文部省の所管とするため、閉鎖され文部省に移管されています。
 銀行事務講習所は、明治19年5月、東京高等商業学校(現一橋大学)附属銀行専修科として、しばらく従来の規則のまま教授を続け、20年6月、主計専修科と改称、明治22年3月には附属主計学校と改称され、明治26年9月に廃されました。

一橋大学沿革図を参照
   

右は、「銀行事務講習所」の受付印のある「東京経済雑誌」
 「東京経済雑誌」は日本で最初の経済雑誌で、大蔵省翻訳局に入り紙幣寮に勤めた田口卯吉が創刊したものです。
 田口は、第一号に次のように書いている。

 「…余輩嘗て英国の銀行学士シャンド氏と交親す。一日「エコノミスト」新聞の其の卓上に在るを見、氏に語りて曰く、日本亦斯の如き新聞なかるべからずと。氏笑ひて曰く、余恐らくは、日本の富未だ之を発行する能はざるなりと。嗚呼氏の此の談や固より座間の小笑話に出づると雖、其の余に於けるや恰も鉄針の胸竅を刺すが如きを覚えたり、乃ち氏に約するに、余必ず此の一種の雑誌を日本に起して氏に示すべきを以てせり。」

「銀行事務講習所」蔵書印(Ef-23Aを拡大)

「銀行事務講習所」の蔵書印のある「銀行簿記例題」
*Ef**23**


藤尾録郎

  • 安政2年10月伊勢国久居藩士の家に生まれる。雲泉と号す。
  • 明治3年10月から翌7月まで慶應義塾に学ぶ
  • 明治5年 小石川簡相義塾英学教師
  • 明治7年5月 紙幣寮銀行学局に入る
  • 明治9年7月銀行学局卒業、同月紙幣寮銀行課翻訳掛助手
  • 明治10年2月 銀行学伝習所教師
  • 明治12年7月 簿記学伝習所教師
  • 明治15年4月 銀行事務講習所所長心得
  • 明治19年5月 銀行局調査課長兼東京商業学校附属銀行専修科教師(のち高等商業学校教授兼大蔵属)
  • 明治26年9月 主計学校廃止と同時に高等商業学校を退く。同10月日本銀行に入る。
  • 明治32年3月 日銀を退職、同7月住友本店監査課主任に転じ、住友財閥の会計制度改革を実行
 

参考文献

  • 東京都公文書館編, 『商法講習所』(都史紀要8). 東京都情報連絡室, 1960.3, 177p
  • 西川孝治郎『簿記史談』
  • 高橋久一, 明治前期地方金融機関の研究. 新生社 1967.12

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