複式簿記がやってきた!

明治初期簿記導入史と商法講習所

Bryant=Stratton=Packard

1 Bryant=Stratton=Packard について
 
・アメリカで19世紀後半に普及した簿記書(Bryant=Stratton=Packard簿記三部作と言われる)の共著者
 Henry Beadman Bryant , 1824-1892【写真左】
 Henry Dwight Stratton , 1824-1867【写真右】
 Silas Sadler Packard , 1826-1898

・Bryant と Strattonは、E.G.Folsomがクリーヴランドで1851年に開校した商業専門学校(E.G.Folsom's mercantile college)の最初の学生だったが、1853年、このFolsomの専門学校を買収、Bryant & Stratton School を設立、後に Bryant & Stratton Chain of Business School として、合衆国のみならずカナダにも及ぶ50校以上からなる、連鎖商業学校に成長させた。
 (ちなみに、Folsomは、その後1875年に、ニューヨーク州オールバニーで、連鎖的商業学校の一つであるAlbany Bryant & Stratton College の校長となった。)

・Packard は、各地で簿記教師をした後、Bryant & Stratton 連鎖学校の一つであった New York City Mercantile College の校長を務めた。
 1858年には、ニューヨークのブライアント・ストラットン・スクールを買い取り、パッカード実務専門学校(Packard's Business Colledge) を設立した。Packard's Business College の生徒は、「パッカード・ボーイ」「パッカード・ガール」と呼ばれた。それは、非常に成功し、アメリカだけでなく、フランスやベルギーでのBusiness School のモデルにもなった。
 後に、アメリカで最初の会計士の組織である IA(Institute of Accounts)の会長や、1878年に設立されたアメリカ実業教育者協会(Business Educators Association of America)の初代会長、1896年に設立された商業教師連盟(Commercial Teachers Federation)の初代会長となるなど、商業教育に多大の貢献をなし、生存中から、19世紀の最も優れた実務教育者の一人として賞賛されていた。
  Cummington(Mass.)生まれ。

2 簿記三部作

・Bryant=Stratton=Packard簿記三部作は、簿記・会計に関する教科が大学の教育課程に導入される以前の段階にあって、商業の実務に就こうとする人達に対して簿記・会計の専門的知識を教授する場を提供した実業専門学校ないし商業専門学校の生徒に利用される教科書、特に彼ら自身が成功裡にその設立・運営に関わっていた連鎖的実業専門学校であるブライアント・ストラットン・スクールでの使用を企図として出版された簿記書であった(中野『会計理論生成史』p.204)

・それまでは、アメリカでも、「簿記は学校教育にはなじまない」※と言われることが多かったが、Bryant=Stratton=Packard簿記三部作では、それまでの理論偏重の教科書から、記帳例示主義に拠る教示、つまり、徐々に複雑化させてゆく記帳例題の反復的演習による記帳技術の習得に重点をおいた実践的指導法をとり、それが、ブライアント・ストラットン・スクールの成功と、Bryant=Stratton=Packard簿記三部作が20世紀初頭まで改訂・版を重ねていったということにつながっている。
 ※鉄鋼王Andrew Carnegieが「大学卒業者は企業家としては成功しない」といい論争を巻き起こすなど、日本の商業教育・商科大学論争と通じるものがあった。
 

3 連鎖商業学校

・Bryant & Stratton Chain School は、クリーヴランドで、James Lusk を加え、Bryant, Lusk and Stratton Business College となり、また、Robert C.Spencer とともに、次々とChain School に加えていった。
 Bryant が教課程と財政面を受け持ち、Spencer と Stratton が、ニューヨーク州のその他の町に支部を設立していった。が、急速に拡大していったため、パートナーとなる所有者を見つけることができなくなっていった。
・これらの学校について、次のような特徴は、学校の早い成長と成功に寄与した。
 1) 学生が転校しても名声を受けることと高い品質の教育を保証することができるように、それぞれの学校での精確さが統一されていた。
 2) 勉強全体のプログラムが40$という適度な授業料が、それぞれの学校で一定だった。
 3) 学生は、追加謝礼によって追加コストなしで戻ることができ、それに期間制限はなかった。
 4) 学生が、一回の授業料支払で、望む限り行くことができた。
 5) すべての学校は、3〜4ヶ月の教科課程を提示した。
 
 

4 「簿記三部作」等解題

・全体をとおして、旧版のタイトルでは、"Bryant & Stratton's" となっているが、新版では"'s" がとれ、1867年にStrattonが亡くなったため("High School"新版は1881年刊、"Counting House"新版は1878年刊)、Stratton が著者ではなくなっている。また、新版では、Packardが筆頭共著者となっており、3人の平等な共著というよりは、Packardの著書という面が強いことが推測される。

□Manual of theoretical training in the science of accounts :prepared for use in, and respectfully dedicated to, the several institutions comprised in the International Business College Association / by S.S. Packard
  国立 Nishikawa***338**

・W.C. Whitney は、"Manual of theoretical training in the science of accounts" と Folsom の "Logic of Accounts" を日本に持参、商法講習所の教科書として使用し、日本の会計革命(=複式簿記の導入)に中心的な役割を果たした。
・本学所蔵分 Nishikawa-338 は、LC所蔵のものから、西川氏が複製したもの。


Common school book-keeping


□Bryant and Stratton's common school book-keeping : embracing single and double entry, containing sixteen complete sets of books, with ample exercises and illustrations for primary schools and academies / by H.B. Bryant and H.D. Strattonand S.S.
   国立 旧分類**I-28*70**
 □The new Bryant and Stratton common school book-keeping : embracing single and double entry, and adapted to individual and class instruction in schools and academies / by S.S. Packard and H.B. Bryant
  #国立 *Ee**101**

・Bryant=Stratton=Packard簿記三部作の内、もっとも初学者を対象として著された Common School Book-keepingは、福沢諭吉によって『帳合之法』として訳出された。
 森下岩と楠森嶋修太郎は、『帳合之法』の影響のもと"Common School Book-keeping" 等を参照して、『簿記学階梯』を著した。『簿記学階梯』は、当時として、最良の簿記教科書と言われ、その影響力は『帳合之法』と並んで、明治期全般に及んだ。
・中・上級編に相当する National Book-keeping (High School Book-keeping)とCounting House Book-keeping では、「単式簿記から複式簿記への転換」(Changing Single to Double Entry)という項を除けば、すべてが複式簿記関連の解説に充てられているのの対して、Common School Book-keeping では、初級編に当たるということもあってか、第一部が単式簿記、第二部が複式簿記というように、単式簿記の解説にもかなり多くの紙幅が割かれている。
・Common School 版の指導方針は徹底した記帳例示主義であり、序文(P.3)でも次のように述べている。
 「教師の労働は必然的に無限の多様性と繰り返しである。『着実に教えを繰り返す(Line upon line, and precept upon precept)』というのが教師業のモットーであり、その成功の証になる。」(久野光朗『Bryant=Stratton=Packardによる新旧3部作の簿記書』)


旧分類I-28-70  



Ee-101  


Counting house school book-keeping

□Bryant & Stratton's counting house book-keeping : containing a complete exposition of the science of accounts, in its application to the varioius departments of business ; including complete sets of books wholesale and retail merchandising,farming,
   #国立 *Ee**103*A*
 □The new Bryant & Stratton counting-house book-keeping : embracing the theory and practice of accounts; and adapted to the use of business colleges, the higher grades of public and private schools, and to self-instruction / by S.S.Packard and H.B.
   #国立 *Ee**104**

・"Counting-House Book-keeping" は、アメリカ国内だけでなく、国外においても標準的な著作とされた。それは、野心的かつ極めて実践的な試みであり、現代の課程でいえば中級の教科書に相当するが、もちろん19世紀において斯学が置かれていた状況で役立つように意図されていた。Packardの"Counting-House" は、幅広い話題を扱っており、350頁の本文において、主要な会計帳簿について記述したり株式会社の配当政策について論じている。また、個人企業、組合企業、官庁などの会計だけではなく、農業、銀行業、株式売買業などといった「特殊な」会計に関する資料も収録していた。(『プレヴィッツ=メリノ・アメリカ会計史』p.53)
・"Counting-House Book-keeping" は、"National Book-keeping" の内容を全面的に包含しており、それに代理人―遺産管理人会計、受託販売会計、回送業会計、銀行会計、および証券仲買業会計が追加されている。いわば、基本的簿記原理を習得したあとで、各種の実践的業種別会計に習熟することを意図したものと考えてよいであろう。(久野光朗『Bryant=Stratton=Packardによる新旧3部作の簿記書』)
・本書の特徴は、第1に J.S.Mill(英)、Bastiat(仏)、Perry(米)などによる経済理論の会計への影響が色濃く見られることである。すなわち、当時ようやく学問として台頭してきた経済学(political economy)が会計へ強いインパクトを与えたのだろうが、(1)富(wealth)・(2)富の測定・(3)富を産みだす諸力について、冒頭の3章を当てている。
 第2に、勘定分類の整備である。(中略)旧版では財務・営業・資本主持分という3勘定系統であったものを今日の実在・名目という2勘定系統に整理統合した。
 第3に、理論に片寄ることを避けるため、当時実践されていた多欄式仕訳帳を導入し、なかんずく、第?章の第11セットは、全国的規模で織物卸売業を営んでいた企業の実務会計人、H.M.Crittentonの創案になる様式に依拠している。
・本学所蔵分の、Ee-103(旧版)、Ee-104(新版) ともに、商法講習所の蔵書印が押されている。


Ee-103



Ee-104


High-school(National) book-keeping

□Bryant & Stratton's national book-keeping : an analytical and progressive treatise on the science of accounts, and its collateral branches, prepared as a book of reference for the counting-house, and also as a text-book in high schools and academies /
   国立 旧分類**I-28*77**
□The new Bryant & Stratton high-school book-keeping : adapted to use in business colleges, and the higher grades of public and private schools / by S. S. Packard and H. B. Bryant
   #*Ee**102**

・national book-keeping と high-school book-keeping の違いは、前者の巻末に収録されている「一般的指針」が後者にはないだけであり、両者は構成も内容も実質的にほぼ同じである。
 本書の構成は、高校・アカデミー向けに5セットの記帳例示からなる説明方式を採用しているが、最初の4セットは原理的な勘定理論の修得であり、さらに第?セットまでは一連の個人企業の取引にかかわるものであり、第?セットの終りで組合員の加入による組合企業へと変更し、それが第?セットに引き継がれている。その第?セットでは多くの補助簿の導入とあいまって仕訳日記帳の説明がなされ、第?セットでは実在した大規模な輸入卸売商(組合企業)を扱い、そのあと、単式簿記から複式簿記への転換、農場会計、一般的指針と続いている。(久野光朗『Bryant=Stratton=Packardによる新旧3部作の簿記書』)


旧分類I-28-77



Ee-102

□Bryant & Stratton's commercial law for business men : including merchants, farmers, mechanics, etc, and book of reference for the legal profession, adapted to all the states of the union, to be used as a text-book for law schools and commercial
   国立 旧分類**II-6*13**

 □The Bryant and Stratton business arithmetic : a New York, with practical problems and valuable tables of reference / by H.B. Bryant, E.E. White and C.G. Stowell
   #国立 *SbD**30**

・「ブライアント及ストラットン商業算術書」として、商法講習所の教科書として使われていたもの。
 本学所蔵分 には、(5冊中3冊に)商法講習所の蔵書印がある。


SbD-30
 SbD-30A SbD-30B

 

 □Bryant and Stratton's commercial arithmetic : in two parts : designed for the counting room, commercial and agricultural colleges, normal and high schools, academies, and universities / by E.E. White ... [et al.]
   #国立 *SbD**35**

・「ブライアント及ストラットン商用算術書」として、商法講習所の教科書として使われていたもの。
 本学所蔵分 には、商法講習所の蔵書印がある。


SbD-35A
 SbD-35B


余談:
・1855年、後に視察した試掘油田の作業者から「情知らずの簿記係」(冷血な=a bloodless bookkeeper)と言われた John D. Rockefeller(1839-1937)は、高校中退後、Folsom商業専門学校に入学、6ヶ月のコースを3ヶ月で終え、会計について系統的に学んだ。この時から、アメリカ史における新たな一章が始まった。(『プレヴィッツ=メリノ・アメリカ会計史』p.70には、「21歳の簿記係が、クリーヴランドの富豪家の一団から、ペンシルヴェニアの油田の将来の商業上の見込みを査定するために派遣され」とあるが、間違いらしい?)

・コルト拳銃の発明者 Samuel Colt (1814-62) の兄である John C. Colt は簿記教師であり、"Science of Double Entry Book-keeping" の著書もある。また、W.C. Whitney の一門である綿繰機の発明で有名なEli Whitney(1765-1825) は、マスケット銃の製造でもつとに有名であり、「小火器つながり」とでも言える。サミュエル・コルトの回転式拳銃も、彼がコネチカット州ハートフォードに工場を建てるまでは、ホイットニーの工場で作られていた。
 もっとも、John C.Colt は、出版をめぐるトラブルから出版業者の殺害、死刑執行当日における獄中結婚や自殺など、多くの猟奇的話題を生んだ人物でもあった。(中野『会計理論生成史』p.226)
 

参考文献
・野本悌之助, 帳合之法の原著者ブライアントとストラットン(月刊簿記 4(1) 1953.10 p.66-67)
・原俊雄, 米国における近代的勘定分類の萌芽:Bryant=Stratton=Packard及びFolsomの所説を中心として(産業経理 56(2) 1996)
・久野光朗, Bryant=Stratton=Packardによる新旧3部作の簿記書 (産業経理 43(2)&(3) 1983)

・三好信浩, 日本商業教育成立史の研究:日本商業の近代化と教育, 風間書房 1985.3
 (「アメリカのビジネス・カレッジ」の項)
・久野秀男, 英米(加)古典簿記書の発展史的研究(学習院学術研究叢書5), 学習院 1979.5
 (ブライアントet.al.の他に、イングリスやマルシュの解題もあり)
・濱田弘作, アメリカ会計発達史, 白桃書房 1986.7
・中野常男, 会計理論生成史, 中央経済社 1992.3
・Michael Chatfield, Richard Vangermeersch ed., The history of accounting : an international encyclopedia Garland , 1996
・大野功一他訳, プレヴィッツ=メリノ アメリカ会計史, 同文館 1983.2

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