日・EUフレンドシップウィーク企画展示
EUの公用語

英語

英語は、世界の言語の中でも文法的にかなり特殊な言語です。学校教育や実務のうえでひろく普及しているため、つい外国語の代表であるかのように思われがちですが、英語を基準にして外国語一般を論じてしまうと、道を大きく踏み外すことになります。

英語はドイツ語、オランダ語、デンマーク語、スウェーデン語などとともに、ゲルマン語派に属します。 同じ系統の言語は文法や語彙に共通するところが多いものですが、歴史的変遷を経て英語は活用形・語尾変化の多くを失い、フランス語からの語彙も大量に取り入れて、ゲルマン系の言語一般とはだいぶ異質なものになっています。

「  アメリカ合衆国といえば、英語の国というイメージがありますが、実は連邦レベルでは法律で定められた公用語はありません。その言語政策には、建国当初から現在に至るまで対立の構図が潜んでいます。すなわち、英語を唯一の国家語にして、英語によるアメリカの理想の実現を目指そうとする同化主義と、英語以外の言語使用を公的な場で認めようとする多元主義の対立です。1980年代以降、この対立の図式は英語公用語化論争(Official English Controversy)という形をとって、米国内を議論の渦に巻き込んでいます。」
(河原俊昭, 山本忠行(編)『多言語社会がやってきた : 世界の言語政策Q&A』東京 : くろしお出版, 2004, p.128
「  イギリスでは、連合王国として、言語の地位を規定している法律は存在していない。公用語を憲法、または他の法律で規定することを言語政策であると考えるのなら、イギリスには言語政策は存在してこなかったと言っても過言ではない。」
(中尾正史「少数民族言語は生き残れるか? : 多言語国家イギリスの言語政策と言語教育」. 河原俊昭(編著)『世界の言語政策 : 多言語社会と日本』東京 : くろしお出版, 2002.10, p.189-216: 第8章 よりp.190)
「英語という言語は、世界の言語学的な常識でいうと、とても特殊な位置にある言語なのです。ところが、日本では外国語というと英語のイメージが強いため、それが外国語学習のうえでずいぶんと弊害をもたらしているのです。」
(猪浦道夫『語学で身を立てる』集英社, 2003 (集英社新書 ; 0181E), p.75)
「英語は、語尾変化や活用による、主語や目的語といった文の要素を明確に表す方法や、動詞の人称や数を細かく表す方法を失ってしまいました。それを補うために、語順がやかましくなり、動詞にはまめに主格人称代名詞をつけることになりましたが、全体的にはただ単語を並べているだけという印象を受けるようになります。」
(猪浦道夫『語学で身を立てる』集英社, 2003 (集英社新書 ; 0181E), p.77)
「英語に関しては,(G)一般疑問文を作る時に主語と動詞を倒置する現象は世界的に見ても珍しい。(H)しかも,その時,助動詞の助けを借りるという特徴は英語にしか無い。(I)しかも,万能動詞 do は他の言語に見あたらない,珍しいものである。(J)文法機能が強い,主語が強い,仮主語がある,などという点で,珍しい。特に,主語が非常に強いという点で,英語は世界的にも類例のない,希な言語であるかも知れない。」
(角田太作『世界の言語と日本語 : 言語類型論から見た日本語』東京 : くろしお出版,1991, p.235)
「英語の初学者は、習得すべき多くの語形変化表がないために、英語は少しも困難でないという印象をもつ。しかしこれはほんの感じにしかすぎない。実際には、構造への明示的な指標がないという事実そのものが、あらゆる学習上の困難に通じることがわかって、おおいに困惑するのである。」
(「国際補助言語の役割」エドワード・サピア著 ; 平林幹郎訳『言語・文化・パーソナリティ : サピア言語文化論集』東京 : 北星堂書店, 1983.4, p.124-140 より p.129-130)
「英語はいかにもヨーロッパで成立した生粋(きっすい)のヨーロッパ語の一つにはちがいない.しかし構造的に見て古今のヨーロッパの諸言語のうち,これほど形態法の簡素化が進んだ言語は一つもない.ここに形態法というのは,各語詞の構成法,および各語詞が文中に用いられて果すべき文法的な役割に応じてみずからの形を修飾する一定の方式である.総じてヨーロッパの諸言語は,その所属する語族・語派の如何(いかん)にかかわらず,昔から今にかけて次第にその形態法を簡素化する傾向を進めている.しかし英語の形態法の簡素化の進展の大きさは,ヨーロッパにおいて全く例外的である.この言語の今日の構造的な姿を標準にして言語的ヨーロッパを考えることは,大きい誤りに導かれることになる.」
(泉井久之助『ヨーロッパの言語』東京 : 岩波書店, 1968 (岩波新書 ; 青版 699), p.8-9)


一橋大学附属図書館 学術・企画主担当