一橋大学附属図書館企画展示
マーシャルとシュンペーターの遺産

   Works of Marshall   


マーシャルの主要著作

● 『産業経済学』 −最初の体系的著作− 
The economics of industry (1879)

本文230ページ程度の小著ながら、2年以上の構想を経て著されたマーシャルの最初の体系的著作である。メアリー夫人との共著だが、ほとんどマーシャルによって書かれた。第1編「土地、労働および資本」、第2編「正常価値」、第3編「市場価値」の3編から構成されているが、この著作に込められたマーシャルの意図は、J.S.ミルの『経済学原理』に沿いつつも、より明白な需給均衡論として価値論を展開することにあった。この書の大部分は、貨幣の購買力が不変であるという条件下での収穫逓増現象を扱っている。第3編の最初の章では景気循環論が展開されている。人々の強気が財需要に影響を与えてそれが銀行信用の拡大を生み出す。投資が投機的水準まで拡大すると危険を察知した銀行が貸し出し利子率を引き上げ始める。投機業者の債務不履行が連鎖的に他の倒産を招き、信頼によって拡大した経済は不信によって急激に縮小していき多くの不良債権が発生する、といった貨幣的要因による循環現象の分析を行っている。この出版によって、マーシャルはJ.S.ミル亡き後のイギリス経済学を代表する人物としての評価を固める。なお第2版は1881年に出版されたが、『経済学原理』(1890)の出版後、絶版とした。


● 『経済学原理』 −ケンブリッジ学派の教科書−
Principles of economics (1890)

衰退していた古典派経済学の諸理論を、数学的限界概念と時間概念および進化論的思想を盛り込んだ新しい枠組みの中で再評価する一方、歴史学派の主張にも目配りした本書は、ケンブリッジ学派経済学(新古典派経済学)の核として重要な影響を与えた。第8版(1920)まで版を重ねるが、本書の権威は揺らぐことはなく、ケンブリッジ大学では長きにわたり、卒業資格認定試験受験に必読の書といわれていた。その最大の理論的貢献は、消費者行動と企業者行動を「他の条件が一定である(ceteris paribus)」といった厳密な条件下、つまり後に「部分均衡分析」とよばれる条件下で「限界原理」を用いて説明したことである。本書を通じて「限界効用」という用語が一般的になった。


● 『産業と商業』 −晩年の代表作−
Industry and trade (1919)

副題は“a study of industrial technique and business organization ; and of their influences on the conditions of various classes and nations (産業技術と企業組織についての、およびそれらが諸階級・諸国民の境遇におよぼす影響についての研究)”。晩年のもうひとつの主要著作『貨幣信用貿易』 Money credit & commerce (1923) とともに、“trade”が「貿易」なのか「商業」なのか、“commerce”が「商業」か「貿易」かをめぐって、さまざまな解釈が日本では論じられてきた。


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