平成19年度一橋大学附属図書館企画展示
阿部謹也と歴史学の革新

歴史家の生と研究

「それをやらなければ生きてゆけないと思われるようなテーマ」

阿部謹也のエピソードとして最も知られているもののひとつに、卒業論文に取り掛かる際に、指導教官の上原専禄(1899−1975)より運命的な言葉をかけられた、というものがある。論文の主題を決めかねていた阿部に対して上原は、「どんなテーマを選んでも良いが、それをやらなければ生きてゆけないと思われるようなテーマを選ぶべきでしょうね」と助言を与えた。当時大学3年生であった阿部は、そのあまりに重みのある言葉に圧倒されながらも、「少なくとも私には何かを考えなければ生きてゆけないということははっきりとしていた」と自伝で回顧している。彼が、自身の人生に対してある強い確信を持ち、心を決めた瞬間であった。

  ▲ 上原専禄

阿部は、上原専禄のこの言葉を生涯抱き続けたという。確かに、その業績を振り返るとき、阿部本人の生と研究がきわめて密接に結びついており、自身の「解りたいと切実に思う個人の関心」に生涯こだわり続け、一研究者としてと同時にひとりの人間として真摯かつ誠実な態度を貫いたことがおのずと分かる。

阿部は1958年に上原専禄の指導のもと、卒業論文「ドイツ騎士団史について」を仕上げ、社会学研究科に進学した。1960年に増田四郎(1908−1997)の指導のもと、修士論文「初期ドイツ騎士団史の研究」、1963年には博士課程単位修得論文「中世後期東ドイツ社会史研究序説」を執筆した。また修士論文に付録として4枚の地図(エルサレム、アッコン、1230−1310年および1310−1466年のプロイセンの地図)が添付されていることは、自身の方法についてこの時点ですでに本人が自覚的であったことを示している。

▲ 博士課程単位修得論文      ▲ 東プロイセン州の地図(1912)      ▲ プロイセン(1310−1466)の地図

一橋大学附属図書館 学術・企画主担当