鐘 No.36 (1999.3)




図書館長に就任して

安藤 英義

  昨年12月に私は,石弘光前図書館長の後任として図書館長に就任しました。 それから数か月が経ち,図書館がどういうものであるかが少しづつ分かってきたところです。
  まず分かったことは,図書館の業務というのは,外から見るのと内から見るのとでは大違いということです。 それは当たり前かもしれませんが,図書館には利用者の目には触れない部分が多いことを改めて知りました。 図書館の多様な業務に対応して,本学図書館は現在1部2課8係(平成11年4月から9係)の事務組織をもっています。 長いあいだ教官として図書館を利用してきましたが,恥ずかしながら知らない係がありました。 すべての器官が機能しなければ生命体が維持できないように,どの係が欠けても図書館は機能しません。 部・課・係長以下多くの館員によって,マンモスに例えてもいいような図書館という組織は支えられています。
  館長の任期は3年で,教官が就任する学長以外の部局長の2年任期よりも長いのですが,それはマンモスのような図書館の責任者としては2年では短すぎるということかも知れません。 とくに私の場合の3年間は,進行中の改築工事に関係する時間が大きいと覚悟しています。
  今年に入って図書館改築の2期工事が開始されました。すでに第1期工事により1996年9月に図書館新館が完成しています。 本報『鐘』 No.35で石前図書館長がすでに書かれているように,第2期工事は図書館本館の一部(目録室)と第一書庫を解体して学習図書館を建設するものです。 このような本格的な鉄筋建物の改築は,本学が昭和初期に国立に移転してから初めてではないでしょうか。 解体・建築技術の向上により騒音や振動などは以前に比べて大きく改善されているようですが,それでも工事現場に近い研究室や職場の方々の苦情はしばしば聞いています。 図書館としては, 関係者の理解と協力を得ながら,工事がトラブルなく運ぶよう努力を続けています。
  学習図書館は地下1階地上4階で総面積6,692m2という大きさです。 すでに完成している新館が地下1階地上5階で総面積4,246m2ですから,比べてみてください。 学習図書館の基本平面計画によれば,地階には集密書架,1階には中央ホール,総合カウンター,カード目録,参考図書,ブラウジング,事務室,2階には固定書架,閲覧スペース,キャレルスペース,グループ室,3階には集密書架,キャレルスペース,4階には貴重資料室,マイクロ資料室,事務室などが置かれます。 本学が創立125周年を迎える2000年秋の利用開始を見込んでいます。
  ところで,工事開始に先立って1月8日の夕方,やむなく伐採される樹木(ヒマラヤ杉)とのお別れ会が石学長のご参加も得て行われました。 このことはすでに一橋大学ニュースNo.321に紹介されていますが,その席で当然このヒマラヤ杉の過去が話題になりました。 第1研究館への渡り廊下の左側に見えた2本の大きなヒマラヤ杉ですが,その年齢はどのくらいか,何時からここにあったのかについて,居合わせた誰にも確かなことは分かりませんでした。
  その後,施設課の協力で図書館に残された伐採木の輪切の年輪を数えたところ,70本前後のようです。 改築対象の建物は1930年の完成ですから,その木の年輪と近いのです。 はたしてこのヒマラヤ杉は,この地で誕生したのか,それとも何年か後に移植されたのか。 移植されたとすれば,時計台前にそびえる一対のヒマラヤ杉と同時なのかどうか。 半世紀を超えて図書館および本学の発展を見つづけてきた,とにかく立派なヒマラヤ杉でした。
  図書館の時計台は本学のシンボルです。校歌 「一橋の歌」にも「わが日の本の要ぞと,時計台いしづえかたく,とこしえに天を指しては……」と詠まれています。 それは校歌に織り込まれた唯一の建造物ですし,本学の物理的な象徴としてもこのほかに「自治の鐘高鳴り響く」という歌詞があるくらいです。 授業の開始・終了の時を知らせ続けた鐘のほうは,数十年前に現役を引退し,現在はその鐘の録音を再生して流しているわけです。
  本報 『鐘』 は1979年7月の創刊ですが,この館報名は応募作の中から選ばれたようです。 創刊号のあとがきに残された「館報名を考えていると頭の上でこの鐘の音が聞こえました」という当選者(K.M.というイニシャルしか分かりません)の文章から,このときにはすでに録音した鐘の音が使われていたことが分かります。 守衛さんが毎回その下に行って鳴らした現役時代の鐘は,旧守衛所(現消防器具置場)の前方で佐野善作先生銅像のうしろ付近にあったと記憶しています。
  時計台は現役であり,その大きな時計は正確な時を刻み続けています。 青い空を背にそびえ立つ時計台の景色はいうに及びませんが,文字盤に明かりの入った夜の時計台も美しいものです。 その夜景は,例年卒業アルバムの冒頭部分を飾る大学の一景として使われています。 図書館内にある研究室での仕事で遅くなり,暗くなった構内を正門に向かう途中,池を過ぎた辺りで振り返ってその景色を眺めると,疲れの取れる心地がします。 中でも最高なのは,上弦に近い月が時計台にかかった情景でしょう。 時計台の夜景は大切にしたいものです。
  そのためには,文字盤の明かりを切らしてはなりません。 12個の明かりは全部そろっていなければだめで,1つ切れているだけでも幻滅です。 まして数球が切れてでもいれば,見ない方がよかったと悲しくなります。 球は消耗品ですから切れるのは仕方ありませんが,切れたら一日も早く交換したいものです。 たしかに,時計台のような高い所での球の交換は大変な作業です。 しかし,本学のシンボルを美しく維持するために,関係者の協力を得ながら,図書館は努力を続けたいと思います。
  図書館の過去や伝統にかかわる話が続きましたが,次に図書館の将来にかかわる話をします。 前館長の任期間際の昨年11月に,附属図書館委員会の内部に附属図書館将来計画検討小委員会が設置されました。 14名の図書館委員会委員から館長を含む7名に事務部長を加えて検討小委員会は構成されています。 去る3月17日に第1回の検討小委員会が開催されましたが,これを出発点として,図書館の第2期工事完成後の将来計画についての活発な議論の展開が期待されます。
  第1回検討委員会では,将来計画にかかわるいくつかの検討すべき事項が浮かんできました。 たとえば,第2期工事完成後のサービス体制,時間外開館の拡大,電子図書館的機能の強化,神田(国際企業戦略研究科)の図書室(仮称)との関係などがあります。 さらに長期的には,第2,第3書庫に係わる第3期工事計画の実現があります。 これらはいずれも,これまでの附属図書館委員会等で多かれ少なかれ話題になった事項です。 それぞれの課題について,検討小委員会はその解決策を探ることになります。
  すべての課題について,はっきりいって立場の違いがあります。 図書館サービスを利用する側(教職員・院生・学生など)と提供する側(図書館員)の立場はしばしば衝突します。 利用する側はサービスの量的および質的な向上を望みますが,提供する側の人的および物的な資源には制約がありますから,これは当然のことです。 このような両者の立場を考慮しながら,将来計画にかかる検討事項の解決案を工夫することになるはずです。
  立場の衝突は,何も将来計画ばかりでなく,現実の問題でも見られます。 たとえば,利用者はルールにより年度末に借出図書の更新手続が必要です。 この手続きは,利用者にとってメリットが感じられないかもしれません(本当は借出図書の確認というメリットがあります)が,図書館(閲覧係)にとっては貸出図書の管理責任を果たすために不可欠なのです。 前回の図書館委員会でも取り上げられましたが,残念なことに教員の中には常識の範囲を超える長い期間にわたり更新手続きを怠っている者がいます。 このような利用者は,図書館(閲覧係)に迷惑をかけているばかりでなく,他の利用者の権利を不当に侵害していることにもなります。 お互いにルールを守って,図書館サービスを公平かつ効率的に利用してください。 最後にこのことをお願いして,私の挨拶文を終えたいと思います。

(あんどう ひでよし 附属図書館長)



個人コレクションは,図書館にとって不用の時代なのか?

松田 芳郎

  この頃,貧乏というのは本当に不幸なのかと考えることがある。 無論,生存線上を停迷する飢と隣合せという状況は,思い出しても二度と味わいたくないと思うのは確かである。 豆滓・デンプン滓・フスマ・牛馬の餌のすべてを食べて育った世代の思いかもしれない。 でも,ゼロックス・コピーの氾濫から始まり,さらには,電子メイルのネットワークを通じて必要な雑誌論文のコピー可能な電子図書館はすでに不可欠なものになりつつあることは確かである。 昨年5月にワシントンD.C.でUSセンサス局を中心に開かれた“Employer-Employee Linkage Problem”に関するミクロ統計のワークショップでは,予稿はすべてe-mailで送付し,予稿集として印刷されることなく,主催組織のホームページを開いて必要なものだけを事前に読み,取り出しておくというシステムであった。 この便利さは,自分で国際的シンポジウムを組織してみると身にしみて感じる知的環境の激変である。 文献検索と利用との時間距離の短縮は,まことに画期的であり,e-mailでのやり取りは,かつての手紙による情報の交換とは別種の形を生み出している。
  昔,森有正が,北大のオルガンを弾きたくて集中講義を引き受け,その折に小さな研究集会で講演をし,その後のお茶を飲みながらの会合で,「学問というのは,歩いて行き来することが出来る範囲のなかに人が住んでいるのでなければ成り立たない。」といってパリのカルチエラタンに思いをはせていたのが,その場に居合わせた札幌在住の北大人の間に微妙に反響を巻き起こしたのを憶えている。 「北大の研究会がつまらなくなったのは,参加者が帰りの終バスや終電の時間を気にするようになった百万都市になった頃からだ。」とあとで私の友人がボソッとつぶやいた。 人と人との会合が本当にe-mailを介して十分になされるのであろうかというのが,e-mailの盛事をみながらの感想である。
  コピー機がなくて,すべて筆写に頼り,演習で配布する資料やテキストは,コピーするには謄写版のために蝋紙の原紙を切る(ガリ切り)のが,最も安くて便利であった時代に学生生活を送っていた時と,現在のように読み切れないコピーを抱えている生活との対比である。 高価な本を購入するわけにはいかず,図書館の本を図書館で読むか,借り出すか(借り出し可能なら),筆写する以外にはなかった貧乏書生の時代は果たして本当に不幸だったのだろうかというのが,冒頭の疑問につながるのである。
  大学院というのが学部施設の流用で作られ,大学院生の個室などは考えられもしなかった時代に,それでも一橋大学の図書館は,今の正面入口右手の部屋を大学院生用の深夜迄開館する部屋にしておいてくれた。 そこに開架で置いてあったのは,杉本栄一教授の旧蔵書の洋書部分であった。 どういうわけか,そこは,ほとんど利用する人がなく,その院生読書室というのは,本を読んで暮らすのには,最適の空間であった。 しかも,計量経済学を専攻しようと思っていた者としては,「近代経済学史」(岩波全書)を書いた杉本教授の引用している文献のほとんどが揃っているそのコレクションは,先生独特の赤鉛筆と青鉛筆で印を付してあり,あたかも先生と向き合って教えてもらうような気持ちになった。 私は,杉本栄一教授に教えを受けたわけではないが,教授最後の頃の弟子である地主重美先生のゼミナールに小樽商科大学で入り,地主先生が留学されるに際して,確か杉本ゼミの一回生であった北大の早川泰正先生のゼミナール指導を受けに札幌に通っていたので,いわば孫弟子の様な気がしていた故であったからである。
  この時に体系的な蒐書というものが人に強烈な印象を与えるというか,蒐書そのものが,その人の学問の在り方を示していることを知ることが出来た。 体系的蒐書・コレクションということで思い出すのは,小樽商科大学で手塚壽郎教授文庫の整理を手伝ったことである。 小樽商科大学ではそれ迄,古瀬大六先生が財務管理と計量経済学を講義してらしたのを,新設の管理科学科での講義を担当されるために,計量経済学の講義を手放されて,その後を引き継ぐために,新米の講師として母校の小樽商科大学に赴任した。 その後,浜林正夫先生に「グスタフ・シェル文庫目録の次に手塚壽郎教授文庫目録を作る。 ついては手塚先生は,日本における数理経済学の開拓者であるから手伝うように。」と申し渡され,同僚の阿部謹也さんや,北大の遅塚忠躬さんなどと一緒に仕事を始めた。 手塚文庫は,知る人は知るように数理経済学はほんの一部分であり,特にサン・シモン主義やフーリェ主義を始めとして,プルードンとその後のアナーギスムについては,世界的に有数のものの一つであった。 それに目を奪われると共に,それが何故手塚壽郎教授のレオン・ワルラス研究につながるのか関心をそそられ,改めて手塚教授の昔の論文を読み始めた。 ワルラスが処女作ともいうべき「プルードン批判」の書籍を書いており,それをワルラス研究のなかで手塚教授は読み,さらにプルードンそのものに惹かれたことと,またレオン自身が経済学は,その父オーギュストに学び,オーギュストは,サン・シモン主義者の一人とみなすことが出来たことなどが,手塚教授がフランス社会思想,特に空想社会主義の文献の蒐集にのめりこんでいった一因であることが判った。 教授は帰国後一連のプルードン研究論文を数理経済学研究の論文と共に書き,「私はこれからプルードン主義者として論文を発表する」という趣旨の文を見つけたときの感激は,今でも記憶に新たである。 教授は,狭い戦時体制下の日本を後に上海の同文書院大学に行かれ,病を得て帰国後急逝された。 残されたのは,手塚文庫である。 結局この文庫目録は,坂田太郎編として刊行され,私の拙い手塚壽郎教授伝は,冠頭に無署名であるが記載され,私なりに手塚教授の学問と思想とコレクションの関係を跡付けることが出来た。
  近頃,書庫スペースが狭いということで,個人コレクションはどこの図書館でも受け入れを渋り,仮に受け入れたとしても,コレクションとしては保存せず,解体し,しかも既存の蔵書と重複しないもののみを整理するという方針になった様である。 本当にそれで良いのであろうか。 一世の碩学の集めた蒐書自体が何かを物語っているという考えは,私には捨て切れないでいる。 丁度,書簡の研究が学説の研究に不可欠の様に何を読んでいたか必要なのである。 それは,その人の著書に十分引用等の形で示されているとは限らない。 例えば,ケインズが「一般理論」のなかで過少消費説について,マルクスとの対比で,シルヴィオ・ゲゼルを持ち上げていたのかといったことを思い出してみると良い。 ケインズの引用のいかに少ないことか,自分が骨肉化してしまったものは敢えて引用しないのか,引用しないことすら気がついていないのかといった問題を考えてみることが必要なのではなかろうか。 もっとも,e-mailとコピーが中心の現代の研究家にとっては,そのようなことを考えるのも無意味なのかもしれない。
  私のこのような古書に耽溺する性癖を御存知だったのか,大学院時代の恩師の山田雄三先生は,私が小樽に赴任するに当たって「君,経済学というのは,科学なのだから学説史研究であってはならないので,最新の考えの上に次の理論が作られていくのだよ。」といわれた。 ロッツシャーの学説史を含む「国家経済学講義要編」やグンナー・ミルダールの「経済学説と政治的要素」という学説史の名訳もされ,ご自身も何冊かの近代経済学説史の本を書かれた先生の後身に対するいましめの言葉であった。
  山田雄三先生の蔵書は,現在先生の母校の東京経済大学(旧大倉高等商業学校)に寄贈され山田文庫として残っている(和書の一部は,東京国際大学に寄贈されている)。 先生の考えの軌跡の一部がそこに残されている。 (山田雄三「蔵書寄贈について」(「寒蝉第6集」(平成4年)所収,pp.96-97)

(まつだ よしろう 経済研究所附属日本経済統計情報センター教授)



図書館中庭のヒマラヤ杉によせて

H. N.

  平成11年1月8日午後5時。 冷気と暗闇の立ちこめる図書館の中庭において,「ヒマラヤ杉等にお別れをする会」が開始された。
  図書館長ならびに学長による「お別れのことば」に引きつづき,参会者一同遺漏なく日本酒による潔斎を終え,各人各様のポーズをとって冬空にそびえ立つ二本のヒマラヤ杉に献盃をしたものであった。
  この会は図書館第二期工事のために切り倒されるヒマラヤ杉を始め,この場所を明け渡す定めにあるモロモロのものに別れを惜しんで開かれたものである。 会が進むにつれてI先生から,「この杉は,軍が植えたものだそうだよ…」との発言があった。
(ホンマかいなぁ?)
(でも,なぜ?)

  それから何日かたったある風の強い一日,古い地図を入念に調査した後,旧軍隊ゆかりの地を歩いてみることにした。
  まずは旧第一師団屯営所跡(現防衛庁他。以下カッコ内は現在の施設)を出発点として,旧参謀本部(国会前庭他),近衛師団司令部,近衛歩兵第一連隊,同第二連隊屯営所(北の丸公園),陸軍士官学校(陸上自衛隊市ケ谷駐屯地他),昭和17年に小平へ移転する前の陸軍経理学校(東京女子医大他),陸軍戸山学校,陸軍幼年学校,近衛騎兵連隊(都立戸山公園他),陸軍予科士官学校,同演習場(陸上自衛隊朝霞駐屯地,同演習場他),陸軍中野学校(中野サンプラザ他),移転後の陸軍経理学校(陸上自衛隊小平駐屯地他),陸軍飛行第五連隊(ファーレ立川の一部,国営昭和記念公園他),陸軍登戸研究所(明治大学生田校舎他),第三師団,昭和3年に守山へ移転する前の騎兵第三連隊,陸軍地方幼年学校(名古屋市役所,名古屋市市政資料館他),移転後の騎兵第三連隊(陸上自衛隊第十師団司令部・名古屋市守山区),第五師団,歩兵第十一連隊営所(広島城他)とたどってみた。
  スペースの関係でその詳細は省略するとして,結果だけを記すと,旧軍隊とヒマラヤ杉の相関率は100パーセントと見受けられた。
  訪れたすべての場所に,ヒマラヤ杉はまるで待ってましたとばかりにその特徴ある姿を現わした。 ほとんどの場所で数十本,多い所では二百本以上を数えることができた。
  どの梢(こずえ)も北の方角を指し示すかのように大きく揺れ動いている。 紙屋町の雑沓から歩いて数分の広島の歩兵第十一連隊跡地石碑脇に立ち並ぶヒマラヤ杉は, ヒュードドードドドーと大声を上げ,抗(あらが)うすべもなく瞬時に原爆の犠牲となった無数の兵士と市民の亡霊たちに向きあって,終わることのない対話を交わし続けているようにも思われた。

  1月19日。 中庭にクレーン車が入り,ヒマラヤ杉の伐採が始まった。 樹勢に多少の違いはあるものの,樹高は共に約27メートル。 目通り幹周は北側のもので約3メートル,南側のものが約2.5メートル。 二本目が切り倒されたのは翌日になってからであった。
  記念のために北側の杉の根本近くが厚さ約30センチの輪切りにされ,保存されることになった。
  早速年輪を数えてみる。
  72〜73本位。
  チェーンソーで切られたため,年輪を正確に数えることはむずかしいが,この杉がこの世に生を受けたのはおよそ大正15年〜昭和2年頃のことと思われる。
  もとより年輪を数えてもこの杉が図書館の中庭に植えられた年はわからない。 年輪から移植の年を読みとれれば別だが,素人にはむずかしい。 仮に生後5年目に移植されたとすると昭和6年頃。 10年後に植えられたとして昭和11年位。 いずれにしても図書館の建物が完成してしばらくたってからであろう。 ロマネスク様式の優雅なアーチを持ち,鉄格子と鎧戸に護られた堅固な書庫を持つこの建物が武蔵野の赤松林の一角に姿を現したのが昭和5年であった。
  それから今日までの60〜70年近い歳月の間に,この建物や中庭のヒマラヤ杉はこの場所で何を見たのだろう?
  …青春を戦時に過ごした学生たち。 米軍戦闘機の機銃掃射。 入館を拒否されたO先生。 図書館職員からF寺住職になり,その名を無縫塔にきざまれたYさん。 (Yさんは漢籍の整理を担当していた。) 一晩書庫に閉じこめられたN先生。 日本人よりも正確な日本語を話した長身のドイツ人Rさん。 (Rさんには図書の整理や通訳でお世話になったものだ。) 毎週必ず決まった時間にK事務長の机を挟んで打ち合わせをしていたB館長。 (昔の図書館事務室は今回解体される臨時書庫の中にあり,教官はここから入庫していた。) 学長の時もしょっちゅう図書館に現れては館員と話し込んでいたM先生。 おなじみの“TEMPUS FUGIT”(時は過ぎゆく)が掲げられた目録室の屋上で,午睡を日課にしていたTさん…
  …そして,かつては職員とその生活空間を共にしていたヘビ,ノミ,カ,迷いチョウ,タヌキ,ネコ,ハト,ハチ,カエル,カビ,ガ,コオロギ,コジュケイ,アブラムシ…これらかつての図書館の同居人たちは,いずれもその強烈な個性を遺憾なく発揮してくれたものだった。
  モロモロのものが消え,思い出が残り,思い出が消え,新しいモノが現われ,再び思い出が生まれる。
  ヒマラヤ杉を始め,工事と共に消え去る定めにあるモロモロのもの,モロモロの「思い」 に対しては,また,たとえそれが何であったにせよ,図書館の中庭にヒマラヤ杉を植えた 「意志」に対しては,「もって暝すべし」と言うべきであろうか? 1年半後には新しい図書館がその姿を現わしているはずなのだから。

  2月に入り,書庫の解体が始まっても,冒頭の「なぜ?」という疑問,すなわち旧軍隊がヒマラヤ杉を植えた(と思われる)理由,または動機についての正解は顕われそうにもありません。 むしろ疑問は深まるばかりです。
  ヒマラヤ杉が松科の樹木であることを考えると,旧陸軍経理学校から当館所蔵に帰した若松文庫の文庫名にヒントが隠されているようにも思われますが,これはおそらく考えすぎでしょう。
  ヒマラヤ杉は300年以上を生きるそうなので,この「鐘」の題字欄に描かれた図書館正面の二本や,その他学内に多く見られる残りの杉は,幸いにして切られることがなければあと250年位は生きるのでしょう。
  新しく建てられる図書館は250年後にはどうなっているでしょうか? その間にこの建物は何を見ることになるのでしょうか?
  千本近いヒマラヤ杉を見てまわるうちに,今を生きる私たちには思いも及ばない,とてつもない別世界の存在を一瞬かいま見たような複雑な想いにとらわれたものでした。
  なおこの記事を書くにあたり多くの方のお世話になりました。記して謝意を表します。




 現在,図書館増改築第II期計画による建物解体作業が行われており,基礎部分までの解体が完了するのは4月末(予定)です。 思えば,“平成10年度にこの工事が着工出来そうだ”,という話を耳にしたのが,昨年のゴールデンウイーク明けでしたので,それから1年経ないうちに,何十万冊かの図書を納めていた合計3,100m2以上の建物が無くなってしまうことになります。 この間,利用者並びに周辺建物の皆様にはいろいろとご不便・ご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでしたが,おかげを持ちまして,資料や什器類の移動,書架の移設などを建物解体着手までに終えることが出来ました。 これもひとえに関係各位のご理解とご協力の賜と,厚く御礼申し上げます。
  さて,昨年6月からこれまでに行ってきた作業等をここに第II期関係日誌としてまとめてみました。

第II期関係日誌

月  日項   目
10年 6月1日(月)〜7月17日(金)
7月1日(水)〜8月6日(木)
7月9日(木)〜7月24日(金)
7月13日(月)〜8月14日(金)
7月14日(火)〜7月22日(水)
7月16日(木)
7月16日(木)〜7月17日(金)
7月21日(火)〜7月31日(金)
7月24日(金)
7月31日(金)
8月3日(月)
8月3日(月)〜8月4日(火)
8月3日(月)〜8月6日(木)
8月3日(月)〜9月18日(金)
8月3日(月)〜9月30日(水)
8月7日(金)〜8月14日(金)
8月10日(月)〜8月12日(水)
8月13日(木)〜8月19日(水)
8月17日(月)
8月17日(月)〜8月18日(火)
8月20日(木)〜8月21日(金)
8月24日(月)
8月24日(月)〜8月31日(月)
8月25日(火)〜8月27日(木)
9月3日(木)
9月7日(月)〜9月14日(月)
9月9日(水)〜9月11日(金)
9月16日(水)〜9月29日(火)
9月21日(月)〜9月24日(木)
10月12日(月)〜10月30日(金)
11月16日(月)
11月27日(金)〜12月3日(木)
12月9日(水)
12月14日(月)〜12月17日(木)
臨時集密書架配架資料の第2書庫1階への移動
図書のクリーニング作業
保管資料等の箱詰め作業
配架先指示票作成及び差込み作業(第1回小平分)
重複資料等の廃棄
小平収蔵庫重複資料等の廃棄
小平図書収蔵庫・小平本館物品整理
解体済み保管書架の移設(旧館地下→小平本館)
不用物品の廃棄(第1回)
箱詰め資料の小平への移動
保管什器等の小平への移動
雑誌係の引越し(旧館1階→新館2階)
新館3階移設予定書架配架資料の退避
電動集密書架移設(旧館1階→新館3階)
図書の修復作業
特殊文庫の古典センター書庫への移動
新館3階開架書架(60連分)の新館2階への移設
新館3階開架書架(96連分)の小平移設
新着和雑誌(新館1階)の待避
文献複写コーナーの引越し(旧館2階→新館1階)
新着和雑誌書架の移設(新館1階)
新着和雑誌(新館1階)の書架への戻し
補助書架の移設(第1書庫4−5階→小平図書収蔵庫)
配架先指示票作成及び差込み作業(新館3階への移動分)
電算機システムの移設(旧館1階→新館1階)
小平への資料移動(第1回)
メインカウンター・閲覧係の引越し(旧館2階→新館1階)
第3書庫の均し
新館3階集密書架への資料配架
配架先指示票作成及び差込み作業(第2回小平分)
補助書架(60連分)の移設(第1書庫1,3階→小平本館)
新規購入書架の小平本館への設置
不用物品の廃棄(第2回)
小平への資料移動(第2回)
11年 1月8日(金)
1月18日(月)
1月19日(火)〜1月20日(水)
1月23日(土)〜1月24日(日)
2月4日(木)
2月6日(土)〜2月14日(日)
2月6日(土)〜2月11日(木)
2月10日(水)〜[4月末予定]
伐採樹木お別れ会(17:00〜)
図書館本館さようなら会(17:30〜本館1階旧3係室)
旧館北側ヒマラヤ杉2本伐採
増改築工事のための仮設電気工事
時計制御盤移設
第1書庫と第2書庫の縁切り
旧館と本館の縁切り
第1書庫及び目録室建物の上屋〜基礎の解体


今後の日程 (予定) について

  解体工事は4月末まで掛かりますが,4月に入ると山留工事や基礎固めなども並行して行います。 その後,7月頃の地階部分立上りから始まり,8月頃に1階部分立上り,9月頃に2階部分立上り,10月頃に3階部分立上り,11月頃に4階部分立上り,12月頃に屋上部分立上りと進み,来年3月初めに清掃し,検査を経た後,業者から大学側に引き渡されます。 引き渡し後,電動集密書架の設置が行われる予定です。 その後,各種設備・備品の設置や,書架の移設,資料の移動などを行い,平成12年秋頃に正式開館を行いたいと思っております。 その間,利用者並びに周辺建物の皆様にはいろいろとご不便・ご迷惑をお掛けすることと存じますが,何卒ご理解とご協力の程をお願い申しあげます。
  なお,上記の日程はあくまで,現時点(平成11年3月初旬)における予定であることをご了解下さい。



小平図書収蔵庫(旧小平分館)図書の利用について

  国立旧目録室・第一書庫の取り壊しが平成11年1月から始まりました。 そこに配架されていた資料は,昨年8〜12月にかけて再配置を行い,小平図書収蔵庫等小平施設に特殊文庫の一部や本館分類資料の内1965年以前受入分等を待避しました。

利用方法
  小平施設は書庫のみとなっており,原則として直接利用することはできません。 収蔵されている資料は,国立のカウンターに「配送」の申込みをしていただき,配送便で取り寄せることになります。 配送には2〜3日かかります。
  図書が到着したら,カウンター前の掲示板にメモを張り出しますので,そのメモをメインカウンターに提示して下さい。 なお,到着して10日間はリザーブしておきますが,その間に貸し出し手続がない時はリザーブを解除します。
  教官・院生については,事前にメインカウンターまでお申し込みいただければ,直接小平施設を利用することができます。 ただし,利用できる日時が「配送」の日時に限定されますので,必ず事前にお問い合わせ下さい。

収蔵資料
  小平には次の資料を収蔵しています。 それぞれの方法で検索して下さい。



ゼミ・グループ単位での図書館ガイダンスについて

  図書館をよりよく使っていただくために,小グループ単位でのガイダンスを行っています。
  ゼミやサークル,または友達同士などの2人以上のグループでの申し込みを受け付けていますので,以下によりお申し込み下さい。

内容
ガイダンスの内容は,グループの希望にあわせて選んでいただけます。
日時
月〜金曜の各9時,10時,11時,13時,14時,15時,16時から(30分〜1時間(内容によって異なります))各時間帯ごと先着順に受け付けますので,ご希望に添えない場合があります。
申し込方法
カウンターに備え付けの申し込み表に記入して下さい。
お問い合わせ
附属図書館情報サービス課 閲覧係
 (メインカウンター) 内線8237



本学教官著訳寄贈書一覧 (平成10年8月〜平成11年2月)

安藤英義: 商法会計制度論 新版
板垣 與一: アジアとの対話 第5集
小川 英治: アジア通貨危機の経済学 (執筆)
(同): ユーロと日本経済 (共著)
奥田 英信: 入門開発金融 (共著)
田中 宏: 東北亜政治与文化論叢 第3集 (執筆)
(同): 「慰安婦」問題とアジア女性基金 (執筆)
新田 忠誓:: 会計学説と会計数値の意味 (執筆)
山澤 逸平: A Vision for APEC towards an Asia Pacific economic community
山本 武利: 特務機関の謀略 (執筆)
横張 誠: 芸術と策謀のパリ
渡辺 尚志: 近世村落の特質と展開



会議・異動等の記録

◆会議

〈学内〉

附属図書館委員会 (10.10.7, 10.11.18, 11.2.17)
附属図書館第II期増改築工事について
寄贈資料受入基準 (案) について
平成10年度専門図書費の追加配分 (案) について
一橋大学創立百年記念募金図書購入委員会 (11.2.17)
平成11年度図書館電算機保守料について

〈学外〉

平成10年度国立大学附属図書館事務部長会議 (11.1.21)
於:三重大学


◆人事異動

 [新] [旧]
平成10年10月1日付 情報管理課図書情報係 植草淑子 (採用)
  情報サービス課参考調査係 梅崎恵美 (採用)
平成10年12月1日付 一橋大学長 石弘光 附属図書館長
  附属図書館長 安藤英義 (併任)
平成11年1月31日付 (退職) 小幡友子 情報サービス課閲覧係
平成11年2月1日付 情報サービス課閲覧係 後藤由布子 (採用)

◆永年勤続表彰

平成10年11月20日付 情報サービス課参考調査係(経済学部助手) 金子信夫



相互利用係新設のお知らせ

  平成11年4月1日から,情報サービス課に相互利用係が新設され図書館事務部は2課9係となります。 相互利用係は,文献複写,相互貸借,他館への紹介状発行などの業務を行い,参考調査係は,資料の所在や特定事項の調査・情報提供,情報の検索指導などを行いますので,よろしくお願い申しあげます。




LIBRARY CALENDAR

  開館時間の詳細は, http://www.lib.hit-u.ac.jp/service/calendar-j/ でご覧になれます。
  土曜日の開館するのは新館のみです。 (9:00〜16:30)
  臨時休館等変更の場合は掲示でお知らせいたします。
      
開館: 特に記入のない場合は下記の時間開館します。   
××××××
休館

新館 メイン
カウンター
月〜金曜日 書庫の資料の取り出し 9:00-12:00 ; 13:00-16:45
その他の業務 9:00-17:00
書庫への入庫(職員・院生) 9:00-16:30 (16:45閉庫)
新館
カウンター
月〜金曜日  9:00-20:00
土曜日  9:30-16:30
文献複写
カウンター
月〜金曜日  9:00-11:50 ; 13:00-14:20
大閲覧室(旧館) 月〜金曜日  9:00-16:30
東学習図書室 月〜金曜日  9:00-16:45
(試験前,休業期にかかわらず閉室時間に変更はありません)

4月 5月 6月 7月 8月 9月
1 全館17:00閉館 新館のみ開館     × ×
2 ×     全館17:00閉館 ×
3 × ×   新館のみ開館 ×
4 × ×   × ×
5 × × 新館のみ開館   ×
6 全館17:00閉館   ×   ×
7       × ×
8   新館のみ開館     × ×
9   ×     全館17:00閉館 ×
10 新館のみ開館     新館のみ開館 ×
11 ×     × × ×
12     新館のみ開館   × ×
13     ×   × ×
14         × ×
15   新館のみ開館     × ×
16   ×     全館17:00閉館 全館17:00閉館
17 新館のみ開館     新館のみ開館
18 ×     × ×
19     新館のみ開館   ×
20     × × 全館17:00閉館
21         ×
22   新館のみ開館     × 新館13:00閉館
大閲覧室
17:00閉室
23   × 新館13:00閉館   全館17:00閉館 ×
24 新館のみ開館     新館のみ開館 ×
25 ×     × 新館17:00閉館
大閲覧室
17:00閉室
×
26   新館13:00閉館 新館のみ開館   全館17:00閉館 ×
27     ×    
28 新館13:00閉館       ×  
29 × 新館のみ開館     ×  
30   ×     全館17:00閉館  
31   新館のみ開館




一橋大学図書館報 “鐘” No.36
平成11年3月31日 発行
発 行 所
一橋大学附属図書館 
編集担当
情報サービス課企画係