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常設展示
社史への招待-ただ重いだけではない-

画像:社史への招待-ただ重いだけではない-
展示
日 程

平成25年12月17日(火)~ 平成26年5月30日(金)(予定)

場 所 一橋大学附属図書館 公開展示室
開室時間 10:00~17:00(入場無料)(土・日・祝日・休館日は閉室)

 「誰が読むの?」「漬物石」等と酷評されることも多い会社社史。実際にひもといてみると意外とおもしろく、資料的意義もあります。本展示では、2013年3月末をもって閉室したイノベーション研究センター資料室旧蔵資料を中心に、特色ある社史をご紹介します。

展示パンフレット


1 旧イノベーション研究センター資料室所蔵社史について

 イノベーション研究センター(以下「IIR」)資料室は、IIRの前身である産業経営研究所(以下「産研」)設立(1949年)当初から2013年3月末の閉室まで、一貫して企業研究の基礎資料の収集・整理に努め、利用提供してきた。主な資料としては、国内外の会社社史・経営者史・有価証券報告書等があり、学内外の教職員・学生に広く利用されている。
 中でも国内社史については、1960年に附属図書館(以下「図書館」)との間で、図書館に所蔵する社史の保管を産研に委託する内容の「契約書」を取り交わし、以降1980年頃まで、図書館で購入・寄贈受入した資料を産研資料室へ移管し、保管・利用提供する体制となった。図書館の「貸渡簿」の記録では、1960年2月16日~1980年1月22日にかけて1,622冊が産研へ移管され、IIR資料室閉室時でもその所蔵国内社史7,846冊のうち約20%を占めた。
 2013年3月の同資料室閉室に伴い、その所蔵資料は学内各図書館・室に移管された。国内社史については図書館本館地階の開架書架に配置され、自由に利用できるようになった。図書館では今後も引き続き社史の収集に努めていく。
 なお、図書館には、旧IIR資料室所蔵社史の外にも、独英米企業史コレクションや社史を多く含む土屋文庫などがあり、また社会科学統計情報研究センターでも社史を所蔵している。



2 社史とはなにか

 社史とは、文字通り会社の歴史を記した資料を意味する。会社が自らの歴史を著述した刊行物を指し、会社自らの責任において提供されることが多い。たとえば、伊牟田敏充は「会社の歴史的情報を、内部資料にもとづいて客観的かつ体系的に、会社自身の責任において提供するもの」とし、村橋勝子は「企業が自社の歴史を、社内資料に基づいて、会社自身の責任において刊行したもの」としている。本学が収集している社史もこれに相当する。
 社史には以下のような特色がある。

 ①会社の周年時期(その多くが10年単位)に創立記念行事の一環として企画・編纂・発行される。
 ②編纂は社内に設けられた臨時の部門によって行われる。ほとんどの場合、著者名は明記されない。
 ③会社の自費出版物・非売品がほとんどで、発行市場・流通機構がない。
  このため、刊行実態の把握が困難である。
 ④おもな配布先は関係者や従業員、図書館、一部研究者に限られており、需給バランスがずれている。
  通常は寄贈という形で配布されるが、寄贈先は発行会社が一方的に決めるため受容者に選択権がない。
 ⑤制作部数が限定され、増刷はほとんどない。

 社史に期待されている役割は3つある。第1に広報(外へ向けての役割)、第2に教育(内へ向けての役割)、第3に学習(未来へ向けての役割)である。社史はただの重い本ではなく、単なる記念品でもない。実際に社史をひもとけば、刊行への熱い思いを読み取ることができる。



3 社史刊行の歴史

画像:村橋勝子『社史の研究』p10 図表1-1より作成

 日本で社史が作られるようになった時期は定かでない。伊牟田は、日本橋魚会所の『沿革紀要』(1889年)を最初の社史としているが、同時に、魚市場の歴史を記した書物であり近代的会社企業の歴史とは考えにくいとしている。柴孝夫の挙げる上毛繭糸改良会社『沿革誌』(1891年)や『甲武鉄道市街線紀要』(1896年)、伊牟田、村橋の挙げる第五国立銀行『沿革事誌』(1896年)、『阪堺鉄道経歴史』(1899年)あたりが、最初の社史であろうか。
 社史刊行が本格化するのは、明治30年代(1897-1906年)からである。おもな刊行元は銀行や鉄道会社であった。周年事業としての社史刊行が形作られるのもこの頃である。明治40年代(1907-1916年)に入ると銀行・鉄道会社の他にも、印刷・瓦斯・紡績・電気・海運など多様な業種で社史が発行されるようになり、刊行点数は増加してゆく。ただし、戦前の刊行点数は微々たるもので、ピークの昭和10年代(1935-1944年)ですら年20~30点程度であった。
 刊行点数が一挙に増加するのが、戦中・戦後の混乱期を挟んだ1950年代以降である(左図参照)。ピークは、明治、大正、昭和期創業の企業がそれぞれ100周年、50周年、30周年をむかえた1980年代で、1981-1990年の刊行点数は3,659点(年平均366点)にのぼる。1990年代からはバブル崩壊による不況などにより落ち込みが見られるが、2000年代以降も毎年200点ほどの刊行があり、社史刊行への意欲はいまなお衰えていない。



4 社史の資料的意義

 インターネットで検索すると、就職活動や投資にあたって社史を読むように勧める記事が多数ヒットし、社史は企業研究に必読の書である。社史の資料的意義には、企業研究上の意義(①会社自身がオーソライズした総合的な情報提供 ②時系列的なデータが得やすい ③できごとや事実を調べやすい ④企業経営の歴史的情報を具体的な形で提供する)があるが、 ⑤産業史、経済史、技術史の研究書になる ⑥文化史、風俗史の研究書となるといった意義もある。本学の卒業論文でも、社史を活用して執筆された論文が見受けられる。
 社史は読み物としても面白いので、まずは有名企業や家族の勤め先の社史を手に取るところからお勧めしたい。



5 展示資料


画像:(初期の社史)日本橋魚市塲沿革紀要 / 日本橋魚会所編, 1889 (BQc:70:上,中,下ほか)

(初期の社史)
日本橋魚市塲沿革紀要 / 日本橋魚会所編, 1889 (BQc:70:上,中,下ほか)

実際は魚市場の歴史を記した書物であり、近代的な企業の社史とは考えにくいとされるが、近世初期から続く魚市場の実態や明治期における新旧産業の展開を知る上で貴重な資料である。



画像:(初期の社史)沿革誌 / 上毛繭絲改良會社, 1891 (Tsuchiya/III:59)

(初期の社史)
沿革誌 / 上毛繭絲改良會社, 1891 (Tsuchiya/III:59)

「本誌は本社創立以來の事蹟を記して後日の參考に供せん爲め」とその刊行目的を記している。最初期の社史を刊行した会社が近代産業を牽引した製糸業の関連会社であったことは注目に値する。



画像:(初期の社史)A short history of the Dai-ichi Ginko / 第一銀行, 1902 (Vq0:fa:2)

(初期の社史)
A short history of the Dai-ichi Ginko / 第一銀行, 1902 (Vq0:fa:2)

本邦初の英文社史。同行初の日本語社史『第一銀行五十年小史』(1926年,Vqfa:20:1)に先だって刊行されている点が興味深い。金融機関の英文社史発行数は他業種に比して多く、国際化への意識の高さや、国際的な信用取得の必要性などが伺える。



画像:(初期の社史)阪堺鉄道経歴史 / 松本重太郎, 1899緒言. (明治期鉄道史資料 第2集. 地方鉄道史 第3巻 [1]. 社史, 1980) (Gc:598:2/3)

(初期の社史)
阪堺鉄道経歴史 / 松本重太郎, 1899緒言. (明治期鉄道史資料 第2集. 地方鉄道史 第3巻 [1]. 社史, 1980) (Gc:598:2/3)

最初期の社史のひとつ。近代的企業による本格的な社史であり、初期的な鉄道会社史のモデルになったとされる。展示品はその復刻版として『明治期鉄道史資料』(野田正穂[ほか]編)におさめられたもの。



画像:(周年社史)日本郵船株式會社創立満三十年記念帖 / 日本郵船株式会社[編], 1915 (Vqhb:2:1) ほか

(周年社史)
日本郵船株式會社創立満三十年記念帖 / 日本郵船株式会社[編], 1915 (Vqhb:2:1) ほか

日本郵船が初めて刊行した会社史。同社は周年時期ごとに社史を刊行しており、その網羅的なコレクションは、同社の歴史のみならず、海運業界全体の歴史を知る上でも貴重な資料となっている。なお、本学では同社の約100年間にわたる会計帳簿類(計1,357冊)も所蔵し、デジタル画像を公開している。



画像:(ユニークな社史)日清食品50年史 / 日清食品株式会社社史編纂プロジェクト編, 2008 (Vqaa4:57)

(ユニークな社史)
日清食品50年史 / 日清食品株式会社社史編纂プロジェクト編, 2008 (Vqaa4:57)

「驚き」「どきどき」を編纂の基本コンセプトにした、冊子2冊とDVDからなる社史。見た目はチキンラーメン、DVDケースも飛び出す絵本でとても楽しい。第50回全国カタログ・ポスター展(日本印刷産業連合会主催)で日本マーケティング協会賞を受賞している。



画像:(ユニークな社史)株式会社桃谷順天館創業百年記念史 / 桃谷順天館創業百周年記念事業委員会編, 1985 (Vqaf7:47:1) 

(ユニークな社史)
株式会社桃谷順天館創業百年記念史 / 桃谷順天館創業百周年記念事業委員会編, 1985 (Vqaf7:47:1) 

全251ページのうち、冒頭の30ページをのぞいてすべてコミックという珍しい社史。コミック部分だけを『美人は夜つくられる―桃谷順天館物語』というタイトルで一般向けに販売したところ、第一刷の55,000部を売り切り、30,000部増刷したという。



画像:(ユニークな社史)森永五十五年史 / 森永五十五年史編輯委員会編, 1954 (Vqaa1:1:1)

(ユニークな社史)
森永五十五年史 / 森永五十五年史編輯委員会編, 1954 (Vqaa1:1:1)

社史の堅苦しいイメージを払拭したビジュアル社史の嚆矢。「内容に一段の生彩と新鮮味を盛り上げるため方針を一變して、社史の本文に代へて寫眞を新たに採用」したと編集後記で述べている。社史全体の4割を写真が占めており、見ていて面白いのはもちろん、資料的価値も高い。



画像:(自社製品をPRした社史)AV creator Pioneer : 音と光の未来をひらくパイオニア50年史 /パイオニア株式会社, 1988 (Vqao2:14:2) 

(自社製品をPRした社史)
AV creator Pioneer : 音と光の未来をひらくパイオニア50年史 /パイオニア株式会社, 1988 (Vqao2:14:2) 

1980年代に登場し、パイオニアがプレーヤーの圧倒的シェアを誇ったレーザーディスク(LD)が付属。本文のページにバーコードが印刷され、該当製品に関する動画のLD収録箇所をサーチできるようになっているほか、1980年に出版された40年史も収録されている。



画像:(自社製品をPRした社史)第一合繊社史 : 合繊織物開発のあゆみ / 大島栄子, 1995 
(Vqab2:10:1) 

(自社製品をPRした社史)
第一合繊社史 : 合繊織物開発のあゆみ / 大島栄子, 1995 (Vqab2:10:1) 

鮮やかなピンク色の布貼りの表紙は「布製表紙 当社製品」。製紙業や繊維・紡績業の社史は、本文用紙や装丁に製品が使われていることが多い。なお、社史の執筆は、先に見附織物組合が発行した『見附織物のあゆみ』を執筆した研究者に依頼している。



画像:(自社製品をPRした社史)日本製箔株式会社五十年 / 日本製箔株式会社, 1984 (Vqal2:23:1)

(自社製品をPRした社史)
日本製箔株式会社五十年 / 日本製箔株式会社, 1984 (Vqal2:23:1)

主にアルミニウム箔を製造販売している同社社史は、アルミ箔を使った銀色の表紙。編集方針の一つに、資料等はほとんど残されていない「『手打ち箔の作り方』を遺産として整理する」とあり、古老に聞き取り調査を行って記録している。



画像:(「優秀会社史賞」受賞社史)大塚製靴百年史 / 大塚製靴百年史編纂委員会企画, 1976 (Vqah:3:1,2)

(「優秀会社史賞」受賞社史)
大塚製靴百年史 / 大塚製靴百年史編纂委員会企画, 1976 (Vqah:3:1,2)

第1回「優秀会社史賞」8点のうちの一つ。「同社の日本の製靴産業に果たしてきた役割や,問屋制経営から近代的大工場経営までの発展の過程や作業組織の具体的なあり方などがよく書かれている。(中略)ユニークな高い水準の社史である。」と講評されている。「足と靴の機能」「インダストリアルデザインと靴」等、研究者も寄稿している。



画像:(「優秀会社史賞」受賞社史)驀進 : 日本車輛80年のあゆみ / 日本車輛製造株式会社編, 1977 (Vqap2:4:1)

(「優秀会社史賞」受賞社史)
驀進 : 日本車輛80年のあゆみ / 日本車輛製造株式会社編, 1977 (Vqap2:4:1)

第1回「優秀会社史賞特別賞」5点のうちの一つ。「『見せる』社史としての工夫が凝らしてあるだけでなく,企業史としてもすぐれた水準のものである。」と講評にある。同社が製造した様々な車両の写真がふんだんに掲載され、中には見覚えのあるのものも。



ネスレジャパングループ90年のあゆみ, 2003 (Vqn:14:1/CD)
小学館の80年 : 1922~2002 / 小学館総務局社史編纂室編集, 2004  ほか

CD-ROM, DVD(-ROM)版は、検索機能を持たせた冊子PDF版のほか、データ集や、製品画像、講演、CM等の音声・映像が収録されていることが多い。発行の挨拶に「お楽しみください」と添えられていることもある。



6 社史に関する/社史を用いたおもな研究文献・著作

・「会社史」入門 / 日本経営史研究所編, にっかん書房, 1984 (612:17, Dbb:A147)

社史の研究者と制作者を対象とした総合的な入門書。社史に関する基本事項から、具体的な編纂方法まで幅広く解説している。


・社史の研究 : 日本企業成長の軌跡 / 藤田誠久編, 有斐閣, 1990 (社会科学統計情報研究センター)

龍谷大学図書館が所蔵する社史コレクション「長尾文庫」を基に、社史の刊行と企業および産業の発展を定量的に分析したもの。


・日本会社史研究総覧 / 経営史学会編, 文眞堂, 1996 (Vq:40)

産業分野を30種とその他(7種)に大別し、各分野について会社史の刊行状況、内容の考察、評価を行ったもの。経営史学会30周年記念事業プロジェクトとして刊行された。


・社史の研究 / 村橋勝子著, ダイヤモンド社, 2002 (3354:140, Vq:42)

約1万点の社史を調査分析し、豊富な事例を挙げて社史の「外側」(種類、編纂体制、構成要素、外見、入手・利用法等)を紹介。社史編纂者を第一の読者に想定しているが、社史の概要を掴むのにうってつけ。


・社史に見る太平洋戦争 / 井上ひさし編. 新潮社, 1995 (2107:63, 2107:63A)

会社史等34点の開戦前夜から敗戦前後の記述を紹介し、「戦後史をどこからはじめるのがもっとも妥当か」を読者に問うた書。編者は「『―○○年史』という出版物を読むのが趣味である。とにかくおもしろいのだ」と述べている。


・カイシャ意外史 : 社史が語る仰天創業記 / 村橋勝子著. 日本経済新聞出版社, 2008 (Vq:46)

誰もが知っているような大企業21社の創業期逸話を、著者の率直な感想・反応に共感しながら楽しめる。巻末に『社史の読み方―「あとがき」に代えて』として、社史の読み方の指南がある。


・歴史に学ぶ経営学 / 吉沢正広編著. 学文社, 2013 (3352:492)

14の事例をもとに「先人が学び蓄積してきたビジネスのポイントを、歴史の中から学び取る」ことを目的とした書。読み進むにあたって意識すべき3点は、本書に限らず社史を読む際にも有効であろう。



参考文献

熊谷尚子「社史の世界」国立国会図書館企画教養課・図書館情報室『カレントアウェアネス』第317巻, 2013.
長沢康昭「第1章 社史研究の問題意識と方法」藤田誠久編『社史の研究:日本企業成長の軌跡』有斐閣, 1995.
柴孝夫「第4章 産業の展開と社史」藤田誠久編『社史の研究:日本企業成長の軌跡』有斐閣, 1995.
小林袈裟治「第5章 社史と企業文化」藤田誠久編『社史の研究:日本企業成長の軌跡』有斐閣, 1995.
村橋勝子『社史の研究』ダイヤモンド社, 2002.
伊牟田敏充「Ⅰ「会社史」とはなにか」日本経営史研究所編『「会社史」入門』にっかん書房, 1984.
近江哲史『社史のつくり方』東洋経済新報社, 1975.
「社史脈々、毎年200点発刊衰えず、景気と関係なく、先人の苦労語り継ぐ」『日本経済新聞』2012年10月20日朝刊
宇田正「鉄道会社史に関する一考察(西日本編)」『経営史学』第23巻第3号, 1988.
橘川武郎「ビジネススクール流知的武装講座:会社史こそイノベーションの教科書だ」『プレジデント』第49巻第8号, 2011.

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