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菊池・直木・芥川 : 知られざる文豪たちを読んでみる


(※一橋大学附属図書館の請求記号を【    】内に記載しました。
(※本学に未所蔵の資料も紹介していますが、公共図書館等で読むことができます。)

髙本善四郎氏助成図書コーナー 小展示 第42回
TZ〈ほんの窓〉 第42号 (2016.11.7)

このたび、80歳を迎えた如水会会員の皆様からの一橋大学後援会傘寿記念基金で「傘寿記念基金文庫」が寄贈されました。文庫のコンセプト「大先輩からの『本との出会い』という贈りもの」のもと、芥川賞・直木賞の受賞作品が揃っています。この機会に協賛して、
        菊池寛(1888(明治21)年12月26日~1948(昭和23)年3月6日)
        直木三十五(1891(明治24)年2月12日~1934(昭和9)年2月24日)
        芥川龍之介(1892(明治25)年3月1日~1927(昭和2)年7月24日)
この3人の著作を紹介する小展示を実施します。

共通の事件・人物・題材を別の作品で併読することや、翻案小説の原材料の探索もご案内します。


1.菊池寛(きくち かん)

文藝春秋社の創業社長菊池は雑誌『文藝春秋』の1934(昭和9)年4月号で連載「話の屑籠」に「親しい連中が、相次いで死んだ。身辺うたゝ荒涼たる思ひである。直木を記念するために、社で直木賞金と云ふやうなものを制定し、大衆文芸の新進作家に贈らうかと思つてゐる。それと同時に芥川賞金と云ふものを制定し、純文芸の新進作家に贈らうかと思つてゐる。これは、その賞金に依つて、亡友を記念すると云ふ意味よりも、芥川直木を失つた本誌の賑やかしに、亡友の名前を使はうと云ふのである。」1)と記し、翌1935(昭和10)年、芥川賞・直木賞を創設しました。

菊池は長篇『真珠夫人』、短篇「恩讐の彼方に」、戯曲「父帰る」をはじめ、幅広いジャンルで多数の著作を書きました。 小説と戯曲とで自作の(セルフ)リメイク(カバー)もしています。芥川龍之介は「たとへば菊池は「義民甚兵衛」を小説から戯曲へ書直した」「ぬたになる筈のものをうつかり刺身につくつた」2)と評しました。

創作の原材料のガイドブックに片山宏行『菊池寛のうしろ影』東京 : 未知谷, 2000【9100:2793】があります。

1) 菊池寛「直木賞金の制定について (話の屑籠)」『菊池寛全集』第24巻. 高松 : 高松市菊池寛記念館(発売元: 文藝春秋), 1995, p.276
2) 芥川龍之介(1924)「小説の戯曲化」『芥川龍之介全集』第11巻「芭蕉雑記 長江游記」東京 : 岩波書店, 1996, p.11-14 より p.13【9180:12:11】


2.直木三十五(なおき さんじゅうご)

「風貌であるが、一見すると芥川龍之介に似ている」1)。直木自身は「芥川龍之介氏と、私と、少し、どつか似た所があるやうである。芥川氏に云はせると、君に似てゐるなんて、不愉快だなあ、であるが、私に云はせても、あんな痩せた河童に似てゐるなど心外であつた。」2)と書いています。

筆名について。「本名は、植村宗一で、植を二分して、直木と匿名にし、当時三十一であったから、直木三十一、翌年三十二と、一目上りに変えてきて、三十五で止めたのである」3)とのこと。

借金に屈せず4)。 命日の呼称「南国忌」は、幕末の薩摩藩の「お由羅騒動」を題材とする長篇『南国太平記』(1931)に由来します。 歴史小説/時代小説を数多く書きました。史実や昔の制度・風俗習慣の予備知識なしに読むと、誰が何をしたと書いてあるのやら、話の筋(ストーリー)も納得了解し難いかもしれません。けれども、有名な事件や人物(キャラクター)が直木自身または他の著者の別の作品や講談で共有5)されている場合があります。史料を駆使したノンフィクション、荒唐無稽に誇張した法螺話、名前や設定の食い違う別伝承などを様々なバリエーションで併せて読めば、どこかで聞いたことのあるような話、芝居や時代劇の記憶とも相俟って、触媒や酵素のように機能して消化も援けます。比喩的に言えば、畑に生えている食材を(なま)のまま調味料もなしに丸かじりする代わりに、薬味や香辛料(スパイス)を利かせると、単品で読んだときとは俄然違った味になるようなものです。

序文「仇討に就いて」の付いた短篇集『仇討十種』6)で単行書デビュー。初期には「直木と言えば、まず〈仇討もの〉というのが通り相場であった」7)。長篇『仇討浄瑠璃坂』8)は宇都宮藩の元藩士が徒党を組んでの討ち入りで、赤穂事件/忠臣蔵9)に先立つこと約30年。柳生新陰流免許皆伝の剣豪荒木又右衛門が助太刀した鍵屋の辻の決闘10)と合わせて江戸の三大仇討とも称されます。

1) 山崎國紀『知られざる文豪直木三十五 : 病魔・借金・女性に苦しんだ「畸人」』京都 : ミネルヴァ書房, 2014, p.19【9100:2611】
2) 直木三十五(1933)「私の友人名簿」『直木三十五全集』第21巻. 東京 : 改造社, 1935 → [復刻]: 『直木三十五全集』第21巻. 東京 : 示人社, 1991, p.187-200 より p.193
3) 直木三十五「死までを語る」『直木三十五作品集』東京 : 文藝春秋, 1989, p.730-775 より p.731
4) 直木三十五(1926)「甘い晦日」. 千葉俊二, 長谷川郁夫, 宗像和重編『日本近代随筆選』3「思い出の扉」東京 : 岩波書店, 2016 (岩波文庫 ; 緑203-3), p.58-63【0800:32:B/651】
5) 直木三十五「三人の相馬大作」『直木三十五全集』第12巻. 東京 : 示人社, 1991, p.150-202
    直木三十五「相馬大作事件」『直木三十五全集』第20巻. 東京 : 示人社, 1991, p.118-151
    直木三十五, 三上於莵吉共著『相馬大作 前篇』東京 : 博文館, 1941 (博文館文庫 ; 第2部 38) 
    長谷川伸『相馬大作と津軽頼母』東京 : 徳間書店, 1987 (徳間文庫)
    寳井馬琴「相馬大作」『定本講談名作全集』第6巻. 東京 : 講談社, 1971, p.533-659
6) 直木三十三『仇討十種』大阪 : プラトン社, 1924
7) 日高昭二『菊池寛を読む』東京 : 岩波書店, 2003 (岩波セミナーブックス ; 88), p.64【0800:6:88】
8) 直木三十五「仇討浄瑠璃坂」『明治大正文學全集』第59巻. 東京 : 春陽堂, 1931, p.285-564【202:16:59】
9) 「大野九郎兵衛の思想」「寺阪吉右衛門の逃亡」『直木三十五全集』第12巻. 東京 : 示人社, 1991, p.390-407, p.408-421
    芥川龍之介(1917)「或日の大石内蔵助」、菊池寛(1931)「吉良上野の立場
10) 直木三十五「鍵屋の辻」『物語の饗宴』東京 : 学芸書林, 1969 (全集・現代文学の発見 ; 第16巻), p.203-215【9180:21:16】
    直木三十五「寛永武道鑑」『直木三十五全集』第13巻. 東京 : 示人社, 1991, p.137-154
    直木三十五「伊賀の水月」『直木三十五全集』第20巻. 東京 : 示人社, 1991, p.222-234
    直木三十五「荒木又右衛門」『荒木又右衛門 ; 由比根元大殺記』東京 : 立風書房, 1970 (日本伝奇大ロマン・シリーズ), p.3-183
    一龍齋貞山「荒木又右衛門」『定本講談名作全集』第3巻. 東京 : 講談社, 1971, p.171-442
    雪花山人(加藤玉秀)述『荒木又右衛門 : 伊賀の水月』東京 : 講談社, 1974 (復刻立川(たつかわ)文庫傑作選)

3.芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)

国語の教科書に掲載1)される機会も多く、日本人の大多数は子どものころから芥川龍之介の童話や短篇小説を複数読んでいるはずです。長篇は書けませんでした。古今東西の文芸作品を材源として利用しています。「芥川はたんなる「模倣者」ではない。彼と同じ量の書籍を読んだ他の作家が、彼と同じことをなし得たであろうか」2)。単一の先行作品を単純に翻案するのではなく、複数の素材を緻密に組み合わせる技巧が独創的です。たとえば「藪の中」(1922)の原作の『今昔物語集』3)には、関係者の証言が互いに食い違い真相が不明という慣用句のモチーフはありません。

北村薫(1992)『六の宮の姫君』東京 : 東京創元社, 1999 (創元推理文庫)【9100:2789】は芥川が同時代の作家・批評家たちと相互に評し評されて次の作品の創造動機へ連鎖していく交流関係を考察した小説で、源流を遡って仏教説話集『沙石集』や西洋の類話をも視野に入れています。

1) 佐藤雅彦編『教科書に載った小説』東京 : ポプラ社, 2008【9100:2100】
2) 大島真木「芥川龍之介の創作とアナトール・フランス」. 『芥川龍之介』I. 東京 : 有精堂出版, 1970 (日本文学研究資料叢書), p.245-258 よりp.214【9100:422:1】
3) 巻第29「具妻行丹波国男(めをぐしてたんばのくににゆくおとこ)於大江山被縛(おほえやまにしてしばらるる)(こと)」第23. 馬淵和夫, 国東文麿, 稲垣泰一校注・訳『今昔物語集』4. 小学館, 2002 (新編日本古典文学全集 ; 38), p.356-359【9180:173:38】



一橋大学附属図書館 髙本善四郎氏助成図書コーナー「本の紹介」班

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